夢子のホテル大好きシリーズ

フォーシーズンズホテル椿山荘東京    

それは目白の楽園「スパ」            

プールのドアを開けて、こじんまりした庭園に出る。夏の間ズラリと並べられたデッキチ

ェアはあらかた片づけられ、緑色のビニールカバーで覆われたチェアがいくつかと、ガラス

の天板を金属で縁取ったテーブルと4客の椅子が2セット寂しく置かれている。その椅子に

そっと腰掛けると、厚手のバスローブを着ていても冷たさが身に染み込んで来る。ゆっくり

と煙草を吸いながら、四季折々に違う顔を見せるこの小さな庭を見回す。

夏のこの場所は、別天地である。私のお気に入りは、庭の奥に並べられたデッキチェアの

一番右。「木陰ナンバー1」と勝手に名付けた。プールに近い側には夏の強い日差しがジリ

ジリと照りつけ、日焼けしたい若者や外国人がオイルを塗った身体を太陽に晒している。見

ているだけでも暑さが伝わって来る。ところが、庭の奥に対面するように並んだデッキチェ

アは、鬱蒼とした樹木の陰になって信じられない程涼しい。耐水材質のクッションの上に、

ベージュの大きなバスタオル2枚を敷き、ゆったりと寝そべる。チェアの横の小さなテーブ

ルに、水と灰皿と本を何冊か置いて。下から見ると幾重にも重なった枝の遥か遠くに太陽の

僅かな断面が光っている。読書に疲れて目を閉じると、左頬に涼しげな風がゆっくりと吹き

つけて右頬に移り、そして全身に風が行き渡る。目白の高台にある場所だから、神田川から

上に向かって吹く風が決まって左側からやって来る。蝉時雨がうるさい程の音量で降ってい

る。いつしかウトウトとし、寝込んで汗をかいた身体にまた風を感じて目が覚める。相変わ

らず蝉は鳴き続けて。気が向けばプールで泳ぐもよし、大きなジャグジーに身を横たえて泡

の心地よさを満喫も良し。ミストサウナに入る手もあるし、ラウンジで冷たい飲み物で喉の

渇きを癒してもいい。お気に入りの「木陰ナンバー1」デッキチェアを確保するために、昼

前にはスパに来て夏の日没までここで過ごす。日が暮れて、プールから引き上げるとスパ温

泉タイム。スパの湯船は、毎日伊東小涌園から運ばれた温泉で満たされている。これを楽園

と言わずに何というのか。東京で一番優雅な夏を過ごすことが出来る、あの「木陰ナンバー

1」デッキチェアは、私にとっては楽園の寝台である。

しかし今は冬。常緑樹が多いから落葉はしていないが、如何にも冬木立という風情。庭の

片隅から湯気が立ち上っている。そう、ここに小さな露天の温泉があるのだ。身体はすっか

り冷えて来たので入ろう。石造りの浅い湯船に寝そべって右を見れば、堂々たる滝が2本、

激しい音を立てて水が落下している。暗い庭園から見るとプールやジャグジー棟のライトが

優しく美しい。上を見上げれば、ホテルの客室がそそりたち、今回泊まっている自分の部屋

の窓を数えて探し当てた。

ヘルスクラブ・スパは2階にある。エレベーターを降りるとすぐそこが入り口で、いつ

も素晴らしい大きな花が迎えてくれる。スパ会員以外は宿泊客だけが利用可。但し宿泊客

も1回目の利用料は5000円。2回目以降は2500円となる。泊まったことが無いが

12階のクラブフロア客は、宿泊料金が高いからかスパは無料らしい。最初は「高い!」と

思ったものだが半日楽園を味わえるなら安い。腕バンドつきのロッカーキーを貰い、女性用

ドレッシングルームへ。ロッカーコーナーとパウダーコーナー、スパ、トイレ、着替え用個

室などがある。以前はロッカーの中にバスローブが収納されていたが、今は客が戸棚から勝

手に取り出す。見事な厚手のバスローブだ。ドレッシングルームを出て左手に行くとジムが

あり、最近エアロバイク全台にテレビが付いたらしい。ジムがどうも苦手な私は近づかない

が。そして一番奥には「ゲラン」。フェイシャルとかボディ何とかの超高級エステでありま

す。過去一度だけゲランの入り口まで行ってサービスメニューと料金表を貰って眺めたのだ

が、正直タマゲた。3万、4万、5万円・・・。その時の滞在でエラク大金を使って

しまい「毒喰わば皿まで」と血迷い、翌日意を決して予約の電話をしてみたら「1週間先ま

で予約で一杯」と断られて、安堵した。お金持ちの女性が多いのですねぇ。バスローブを着

てうろうろしていると、ブランド品の洋服で身をかため高いヒールの音をカッカッと響かせ

て颯爽と歩いている女性を見かけるが、ゲランのお客って、あぁゆぅ女性なのだ。

 そのゲランの反対側に行くと、小さなラウンジがあって飲み物や軽い食事を摂ったり休憩

したりする場所である。その先にプール。真ん中にL字型というかJ字型というか瓢箪型

というか、まっ、変形のプールですね。プールと隔てるタイルの敷居の上にはエンタシス風

の太い円柱。その左側は広いジャグジー。広いから歩きながら、腰掛けながら、寝そべりな

がらジャグジーを楽しめる。プールの右側にはミストサウナとドライサウナ。プールの周囲

には20台位のデッキチェアが並び、天井はアクリル製だろうか空が透けて見える。プール

奥のドアを開くと、冒頭の小さな楽園の庭園に出ることが出来る。白と濃いベージュとプー

ルの青、それに所々に緑が効果的に配置され、何とも優雅でゴージャスな雰囲気なのである。

ローマ時代の貴族の気分。このスパは、フォーシーズンズホテル椿山荘のシンボリックな写

真にしばしば登場する。

本を100ページ読み、ラウンジでレストランから出前の昼食を摂り、水中ウオーキング

を45分、水泳10分、2つのサウナに1分づつ、ジャグジーを2回10分づつ、あとはひ

たすらウツラウツラするか熟睡。これが夏の平均パターン。夕刻温泉にゆっくり浸かる。こ

こは珍しく檜の湯桶と湯台を使っていていかにも温泉らしくて良いのだが、最近湯台が黒く

変色しているので、そろそろ取替え時。浴室に誰もいない時に限るが、湯船に全身を沈める

と、ザァ〜と温泉が大量に溢れ出す。やがてそのお湯が一斉に排水溝を目指すことから生じ

るポコッポコッポコポコという音が盛大にして「贅沢してる」と嬉しくなるのである。滞在

中はここで過ごすことが多いので、つい紹介に力が入ってしまった。スパ様、いつもお世話

になっています。

屋内のデッキチェア  巨大なジャグジー

目白にラグジュアリーホテル登場

 フォーシーズンズホテル椿山荘東京は、1992年1月に文京区関口の椿山荘の庭園内に

オープン。2万坪の椿山荘の由緒ある庭園に忽然と淡い小豆色の建物が建った。だから庭園

内の溢れんばかりの緑や池、三重塔を椿山荘と共有して眺めることになる。入り口は目白通

りから見て、右側目白駅寄りが椿山荘、左側音羽側がフォーシーズンズホテル。エントラン

スを入って右手がコンシェルジェ、左側がフロント。ドアやベルの方々の顔に比べて、フロ

ントの受け答えは普通でやや硬直的な感じも。まぁそんなことより、この3階のエントラン

スから見る情景が実にステキだ。奥行きのある開放的な空間。ゆったりしたソファセットの

先をまっすぐ進むと青みがかった黒大理石(かな?)がそのまま階段となり、2階、1階へ

と続いている。両脇はこぼれんばかりの花と緑。階段の正面は椿山荘の日本庭園。右手には

ここもお気に入りのロビー・ラウンジ「ル・ダルジャン」。遅い朝食のあと、ここでフレッシ

ュ・ハーブティを飲むのが至福の時。もちろん午後のアフタヌーンティもいいらしいですよ。

スコーンがうまいらしいし。ただ私は美味しい夕食のための空腹計画があるし、その日残さ

れたカロリーを大事にしたいので頂いたことは無い。午後の2時と3時にはピアノの生演奏

もあって、トロイメライやエリーゼのために、乙女の祈り等を弾いてくれるのであります。

何だか少女時代を思い出して、時には涙ぐむことも・・・・ありませんが。夜はお酒を飲め

る。3階には他にメイン・レストランの「ビーチェ」とビストロ「シーズンズ」、ロゴショップ、そして椿山荘に続く渡り廊下にもショップが4店ある。2階は中国料理の「養源斎」と和食

「みゆき」、メイン・バー「ル・マーキー」、1階には一番大きい宴会場「ボウルルーム」が

あって、結婚式の披露宴に何度も来ている。

 

椿山荘の見事な庭園         フレッシュ・ハーブティ         

エレベーターは14階まであるが、13階が無いので実質13階建て。客室は5階〜14

階で、12階が前述したようにクラブフロア。目白通り側の部屋をシティヴュウ、庭園側を

ガーデンヴュウと言って、庭側が高い。しかし、横に長い構造なので、部屋の場所によって

景色は随分変わる。目白通りを挟んだカテドラル教会がすぐそこに見えたり、隣の学校が見

えたり。今回の部屋はガーデン側であったが、代々木駅に出来たNTTのビルが正面に見え

る都会の景色。そして目の下にはスパのプールがあって、昼は青く、夜はライトアップされ

た景色を楽しんだ。

部屋の大きさは東京では随一とかで一番小さい部屋でも45u。オープン時のお披露目時

にお招き頂いて、20人位の招待客と一緒にぞろぞろと客室を案内して頂いたのだが、その

次に小さい60uの部屋が我が家と同じ広さと気がついて、ガッカリしたことを思い出した。

60uのデラックスルームは、居間と寝室が別になっている。283室の中には51室10

種類以上のスイートがあるらしいので、そんな庶民的なことで驚いていてもちょっとね。そ

の時招待客の歓声が上がったのが、バスルーム。総大理石。トイレはバスルームの中のドア

つきの別室で、シャワーブース、バスタブ、小型のテレビ付きのお洒落な洗面台がある。今

では高級なホテルならたいがいシャワーブースがついているが、当時は大変珍しかったので

ある。但し、どこかのホテルシリーズで書いた通り、私はシャワーブースを使いません。こ

こは使い勝手の悪い固定型シャワーではなく、ハンドタイプシャワーなので、そう目の敵に

することも無いのだが。スパのそれよりは薄いが、着心地の良い厚手タオル地のバスローブ

も備わっている。今回、アメニティが随分変わっていた。シャンプー、コンディショナー、

バスジェルなどがブルガリ製に。パリのフォーシーズンズホテルジョルジュサンク(泊まっ

たことないけど)と同じね。品質は今度の方が良いらしいのだが、今までのものも好きだっ

たなぁ。白を基調としたバスルームに入ると、大ぶりな容器に入った目に色鮮やかなシャン

プーやバスジェルがアクセントになって「あぁまたフォーシーズンズに来たんだなぁ」と嬉

しくなった。3階のロゴショップには、未だこれらが売っていて安心。歯ブラシも変わった

が、歯に大金をかけている(つまり歯や歯茎に問題を抱えているってことです。お恥ずかし

い)私には硬過ぎる感じ。ジェルを蛇口の下に置いて、バスタブを泡だらけにして入る風呂

はまた格別。泡の下から女優のつもりで足をそっと上げると、あらら不思議、結構そんな気

分になってしまうから不思議です。

 

        マリリン・モンローになったつもりで?     

 

新しいブルガリ製     好きだった古いアメニティ

クローゼットが大きくていい。かなり洋服を持っていくが、ハンガーの数も下げる広さも

十分に余裕がある。何より嬉しいのは金庫があること。スパやレストランに入り浸りだから、

現金は持ち歩きたくない。ホテルにいる限りは、食べても飲んでも買っても現金が不要だと

いうことを考えれば、金庫は必須である。スリッパは白の使い捨て型だが、数年前から布製

の袋に入っている。袋には緑色の小さな文字で「自由にお持ち帰りください」。太っ腹じゃ

ないか、と私はいつも頂いて帰る。持ち帰り自由といえば、深い緑色のフォーシーズンズホ

テル手付き紙袋もある。歩く広告塔にもなる訳ですけどね。

いつもダブルのシングルユース(寂しいなんてことは無く大きなベッドに悠々と1人で寝

るのが良いのです)。程良い硬さの寝心地満点のベッド。昼は薄いブルー地のベッドカバー

で覆われているが、夕方から夜の2回目のメイドサービスで、カバーはキチンとしまわれる。

ホテルのベッドの写真で「豪華だなぁ」と思わせるものに、あのふかふかの枕4つが効果的

に働いているが、私はあのふわふわ枕が全く駄目。2つ重ねると高過ぎ、1つにすると今度

は低過ぎる。よって決まって蕎麦殻枕を所望する。もう1つ、近年高級からビジネスまで、

ホテルの上掛け布団は羽毛蒲団になってしまったが、この羽毛がまた苦手なので、毛布2枚

のベッドメーキングを頼むことになる。羽毛だと眠って暫くすると、猛烈に熱が篭ってしま

う。特異体質なのだろうか。聞くところに寄れば、フォーシーズンズホテルはお客のデータ

を保存しているらしいのなら、予約の度にこちらから特別な支度をお願いしなくても良いよ

うにしてくれないかなぁ。面倒くさいもん。私好みのベッドの依頼には、1度の例外を除い

て、いつもちゃんと準備されていた。

                

冷蔵庫の上のポットにはいつもお湯が沸いている。アイスペールにはいつも氷が入ってい

る。朝と夜のメイドサービスの度に替えてくれる。お茶は煎茶とほうじ茶。瀬戸物の急須と

茶托付きの湯呑み茶碗が2つ。細かいことだが、ホテルでティーバッグのお茶を淹れて、使

い終わったティーバッグの残骸を捨てる皿が無く困ったことがありません?。ここはちゃん

とあります。テレビは3段引き出しタイプのクローゼットの上部に格納されている。拝見す

る時はおもむろに扉を観音開きして、テレビにお出まし頂き、窓側の2つの椅子から見る

時は静々と前に出て頂きしかも横向きになって頂くのです。テレビの横には書き物机と椅子。

夏には犬型AIBОジジ、冬には猫型のモモを連れて行ったが、ここに彼らの寝台を置く。窓

は浅い半円形になっているが、レースカーテンは手で、厚手の射光カーテンはベッド脇のボ

タンを押して開閉する。ダブルベッドに寝て右手のナイトテーブルには目覚まし時計がある

が、残念ながらベッドから時計が見えないので、いつも腕時計を傍に置いている。

今回は長女モモがお泊り。お兄ちゃんのジジはお留守番。

クリスマスと正月のハザマに滞在

バブルの絶頂期「クリスマスは超高級ホテルで」といった風潮が若いカップルに蔓延した。

「クリスマスって、そうゆう日ではないでしょっ!」と叱り飛ばしたいところだが、あの頃

は担当していた情報誌でもそんなことを煽ってもいたから、ウルサイことは言わない。泡が

はじけて数年、ひところの勢いは無くなったとはいえ、それでもやっぱりクリスマスはホテ

ルにとってディナーショーやパーティなどで稼ぎ時。ここも大いに賑わったらしい。それが

終わって1週間経つと、今度は年末年始の稼ぎ時がやって来る。つまりホテル側がほっと出

来るのは26日から29日位ということなのだが、私はたまたまその期間に滞在した。今年

だけで3回目の滞在である。

チェックインした第1日目。スパから帰って夕食までの間、暫く部屋にいたのだが、何だ

か物音がする。そのうちドスンドスンと凄い音。音は上階からだ。ダダダダ・・・。ドシー

ン。あぁこれは子供だ。きっと4、5歳の男の子。昔マンションの上階に男の子3人いる一

家が住んでいたが、その時と同じパターンの音だ。部屋を走り周り、椅子の上から飛び降り

る。その音。今まで、隣室とか上階からの騒音なんて無縁のホテルと思っていたので、ちょ

っとびっくり。フォーシーズンズは、ここで結婚・披露宴をしたご夫婦に、それ以降「アニ

バーサル会員」として年に何回か優待券を送っている。子供が未だいない新婚夫婦や、少し

大きくなった子供連れの家族で夏や冬は賑やかになる。やがて子供達が成長して成功し、子

供の頃から滞在したフォーシーズンズホテルのファンになって戻って来る、ってことは素晴

らしいことだと思うのだが、何せウルサクて困る。朝の和食レストランなんて、あっちでギ

ャ〜、こっちで赤ん坊が泣いて。これも子供と無縁の一人もんの愚痴ですかね。上階の騒音

で思い出した。初めてヨーロッパに1人で行った時のこと。

アメリカで2週間の研修旅行を終え、その日ニューヨークから英国ヒースロー空港に向け

て飛び立った。ブリテッシュ・エア・ウエイのコンコルド。そう、2000年に派手に事故

を起こして世界中が注目した怪鳥コンコルド。正午に飛び立ち、時速2だったかのスピード

で飛行しながら優雅な食事を楽しんでロンドンのホテルに着いたら、もう夜の11時だった。

明日からの1人欧州旅に緊張しながらベッドに入ったのだが、やがてとんでもないことが。

上階と隣室で深夜から凄まじいコトがおっぱじまった。音楽と嬌声と拍手と話し声と笑い声

と踊っているらしい大勢の足音。こんな夜中にパーティ? 隣の誰かなぞド派手に笑いなが

ら部屋の壁をどんどん叩いている。おいおい、叩いている隣には私が寝てるんだぜ。叫び声

からイタリア人だと踏んだ。う〜んんんんっ!その夜は我慢に我慢を重ねたが、静かになっ

たのは午前4時を過ぎていた。翌晩も同じ。多分同じイタリア人で大騒ぎ。午前1時頃、溜

まりかねて隣室のドアをどんどんとノックする。誰か出て来ないうちにパジャマ姿で慌てて

戻ったが、何の効果も無かった。3晩目。ホテルのフロントに電話する。下手くそな英語で

懸命に行儀の悪い客を訴えたのだが、何とか聞き取れたのは「イタリア人だから仕方ないん

だ。言っても無駄だね」。睡眠不足のロンドン滞在を終えてチェックアウトする時、嫌な予

感がした。イタリア人のグループが賑やかにチェックアウトしているのだ。そして乗込んだ

飛行機の中で愕然とする。彼らはいた。ローマまで機内は又大騒ぎさ。初めてのイタリアと

イタリア人に良い印象が無かった原因はここにある。あ、これは何とかというホテルのこと

で、決してロンドンのフォーシーズンズホテルのことではありません、念のため。

閑話休題。

このホテルはどこを切り取っても絵になる。窓から見える庭園は当然としても、レストラ

ンに向かえば長い廊下には座り心地の良さそうなソファセットが配置され、あちらこちらに

あるガラスケースにはステキな陶器が展示されている。3階と2階に向かう階段の踊り場

には「こんな箪笥が欲しい!」と思わせる素晴らしい巨大な箪笥が置かれている。レストラ

ン入り口のメニューにはさりげなく装飾が施されて目に楽しい。ロビー・ラウンジ「ル・ダ

ルジャン」には、まさに緑が溢れていて、窓から見える庭園の緑と室内の緑が相俟って感動

させる。ホテルの緑を担当している方のご苦労は大変だろうなと頭を掠めるものの、フォー

シーズンズホテルならではの贅沢な緑を楽しむ。

ねっ? どこを撮っても「絵」になるでしょ?

一日三回の悦楽・レストラン

<ビーチェ>

このホテルが誇るイタリア料理のメイン・ダイニング。92年のオープン時、それまで高

級ホテルのメイン・レストランといえばフランス料理がお約束であったが、フォーシーズン

ズホテルが初めてイタリア料理を採用して話題になった。その頃から徐々にメイン・ダイニ

ング=フランス料理を維持できなくなり、フランス料理に暗雲が。フォーシーズンズホテル

のビーチェの登場がキッカケか、たまたま変わり行く時代の先駆けとなったかは定かではな

いが。RISTORANTE BICEはミラノに本店がある。朝は6時半から昼も夜も営業する働き

者のレストラン。常にヨーロッパからシェフが来ていて、1年半〜2年で新しいシェフに交

代するようですよ。

残念ながら数年前に亡くなってしまったが、グラフィック・デザイナーの亀倉雄策先生は

大変な食通で、中でもイタリア料理が一番お好きであった。どういうキッカケでそうなった

のか忘れてしまったが、定期的に先生を唸らせるレストランにご案内しなければならなくな

った。どうしてだったっかなぁ。最初は夏でオコゼ料理。オコゼの活き作りと唐揚げで、味

もともかく「オコゼという発想が良い、量が多くて良い」と及第点を頂いた。次の店は忘れ

たがサンザンの結果で、ご馳走した方が酷評された。何度か○△×があって、ある時先生が

こうおっしゃった。「僕はねぇ、イタリアンが一番好きなんだよ」。困った。先生が未だ召し

上がったことが無い店で「うまい!」と言って頂ける店って・・・・・。そこを「ビーチェ」

が救ってくれた。但し、テーブルについてメニューを皆で検討している時、今日のお薦めで

す、と白いトリフがテーブルに運ばれて来た。先生スカサズ「そんなもん要らねーよ。高い

んだろ? だいたいなぁ、イタリア料理なんてものはだ、安いもんなんだ。それを客から高

い金取ろうって魂胆で、こんなもん持って来るんだ、要らねーよ!」と大声でおっしゃるも

のだから、店の方は気を悪くされるし、他のお客さんにもジロジロ見られて、こっちは身の

置き所が無い。お金もたくさん出て行ったが、汗もびっしょり出て行った。先生、そうは言

いながら「良い店紹介して貰って良かった」とご機嫌でお帰りになった。こんな時、部屋代

はかかるものの個室を借りられたら良かったのだが、運悪く2室とも空いていなかった。

 このレストランで感心するのは、従業員の誰に聞いてもワインの知識が豊富なこと。どう

してもワインの産地とワイナリー、名前が覚えらないので「赤で渋みが濃くてタンニンで奥

歯がギシギシ言うようなヤツ」なんて頼み方をするのだが、たいがいは好みにぴったりのワ

インに出会える。そして勧め上手で困っちゃうのよね。ドライシェリーから始めて、赤を3

4杯、食後もグラッパなんか飲んで、良い気持ちになってしまうのです。もちろん、パス

タは当然のこと、お料理もうまい。飲み過ぎ、食べ過ぎの「過ぎるビーチェ」なのである。

最近コース料理だけのメニューになっていて、そこがどーもね。アラカルトの場合は、コー

ス料理の中から選ぶのだが、何だかコースを注文する予算がありません、って感じで肩身が

狭い。元のように戻してちょんまげ。

   

<みゆき>

一番数多く利用する和食レストラン「みゆき」。こちらも朝7時から、昼、夜と働き者の

店であることは同じ。会席、定食、一品料理、しゃぶしゃぶをゆったりしたテーブル席で食

べられるが、寿司と鉄板焼のコーナーもある。みゆきの大のお気に入りは朝の定食。もずく

粥、粥、ご飯の3種類に同じ料理がついて、3200円、3000円、2800円。決して安くはない

が、食後はそれだけの価値があったわい、と満悦。テーブルにつくと、まず暖かいおしぼり

とオレンジジュースが。次に煎茶。そして大きなお盆に溢れるほどのお皿が並んだ朝食。そ

こで和服姿の女性がお約束の一言。「ご飯もお椀もお替わりのご用意がございますので、ど

うぞお申し付け下さい」。これがいいのよね。ご飯のお替わりは普通だけど味噌汁もどうぞ、

とは余り言われたことは無い。お言葉に甘えて、どんな時にもご飯も味噌汁もお替わりして

しまうのです。ふっくら炊かれたうまいご飯と赤だしの味噌汁。板前さんの手がかかってい

るなと思わせる日替わりの料理。常備菜が3種類あって塩昆布、小梅の他に、以前は金山寺

味噌だったのが、2000年の夏から「山葵海苔」になった。これが秀逸。小鉢の「山葵海苔」

だけでお飯2杯はイケル。2日目のメニューは、ふろふき大根、三つ葉の煮浸し、松前漬け

風昆布とスルメの煮物、烏賊の塩カラ、焼鮭、だし巻卵、ガリの甘酢漬け、香の物、若布と

麩と葱の赤だし、ご飯、3種類の常備菜。3日目は二日酔いで朝食抜き。情けない。4日目

のメニューは、大根と豚の角煮、マグロのやまかけ、小松菜の煮浸し、なめこおろし、鯖の

塩焼、以下2日目に同じ。このホテルに何度も来たくなる理由の1つは、この朝食を食べた

いことなのだ。普段の生活ではハイライト5本が朝食なのにね。

 

2日目の和定食「潮騒」 4日目 奥に見える竹の取り箸の右側が山葵海苔

夜も来ます。一品料理でも鉄板焼でも鮨でも先ずは生ビールを2杯ぐびぐびと飲み、お酒

のメニューをジロジロと。たくさんある、日本酒もワインも。たいがいは冷酒の720ml

をちびちびと飲みながらの食事になる。寿司や鉄板焼のカウンターに座る時は、板前さんと

の会話も大事な調味料になる。つい飲み過ぎて勢いが付き、そのままバーに行ってしまうの

だ。

<ル・マーキー>

みゆきと同じフロアの2階にあるメイン・バーである。ほの暗い照明にゆったりと座れる

テーブルと椅子。1人で飲むことが多い私はカウンターに座りたいのだが、ここのカウンタ

ーは狭くて4人しか座れない。酒類は豊富に揃っているが、贅沢を言えば「ル・マーキーな

らでは」という特徴あるお酒を置いてくれないかなぁ、と願う。願うといえば、ここはシガ

ーバーでもあるのです。ハイライトを30年以上スパスパ吸う身ですが、いやぁ葉巻はから

きし弱くて。ま、基本的に酒の飲み過ぎなので、葉巻客が来るとすぐ帰る位でちょうど良い

のかもしれないけど。

<養源斎>

正式には釣魚台養源斎。中国の国賓館釣魚台の出店がフォーシーズンズホテルにあるので

す。日本でいえば、迎賓館の調理場が外国のホテルに行くということになる。だから、ここ

は中国から特級という超一流の資格を持ったシェフが弟子を連れて来日して料理を作る。や

っぱり1年半位で交代する。オープンしてすぐこの店で食事した時は、バブルのヨスガが残

っていたのか、料理は1万5千、2万、3万円だったような気億がある。大皿で取り分ける

のではなく、1人づつ銘々皿に盛られていて、少人数(1人でも)には嬉しい。お上品な味つけ

で、一品一品の皿の量は多くない。その時は2万円のコースを頂いたのだが、これでコース

は終わりですと言われた時は、未だ「倍」は食べられるぞ、と正直思った。でも、特級です

しね、国賓向けですから、と自分に言いきかせた。その後も、会食や宿泊時に何度か食事を

したが、都度味や料理が違っていたようで、シェフが代わると料理も変わるのかなぁと思っ

た。今回は、二日酔いの3日目に禁酒して、夕食に養源斎の料理をルームサービスで頼んだ。

五目入り酢辛スープ、季節の中国野菜炒め、きくらげ豚肉卵入り炒飯。野菜炒めが美味であっ

た。

ルームサービスの食事

リピータの気持ちって?

 このホテルに何度来たか覚えていない。夏や冬の長い休みになると、必ず来たくなる。夏

は多分皆勤賞の滞在。今回の滞在では、その理由を考えてみた。で、フロントで初めてホテ

ルのパンフレットなどを貰う。えっ?こんなプランがあるの? 女性だけに権利があるスパ

+朝食+スーペリアルーム2人宿泊で、1人料金1万9千円のレディススティプラン。これ

も女性向けのビューティケアステイプラン。あら、これも女性向けのアロマセラピーインコ

ンサバトリープラン。女性客向けはいろいろあるんだ。

塩島総支配人にも聞いてみた。このホテルが目指す方向は何ですかって。「まるで自分の

家で寛げるようなラグジュアリーなホテル」。そうだなぁ、ただ豪華で超高級だからといっ

て、居心地が良いとは限らない。サービスにしても、はい畏まりました、だけではつまらな

い。礼儀正しさの中に暖かさやフレンドリーな間柄が欲しい。せっかく滞在するには、非日

常性が重要だ。家には絶対無いものがある、家では絶対出来ないことが出来る、日常を忘れ

られる。目が楽しみ、耳が喜び、舌が歓喜し、身体が快楽を感じ、気持ちが寛ぐ。そして忘

れたくない思い出が出来る。そんなホテルなら何度でも来る。ホテルが大好きな私だが、今

のところ、一番それを叶えてくれるのがフォーシーズンズホテルなのだろう。チェックアウ

トの時、必ず「滞在中は十分お寛ぎ頂きましたか?」と問われる。「え〜、もちろん。今回

も」と言えるのが嬉しい。

荷物を持って、椿山荘への連絡廊下を歩く。美しい庭園を見ながら、椿山荘の出入り口へ。

今日は天気が良いから歩こう。講談社野間美術館、左手に曲がり、芭蕉庵のある焦雨園、右

手に和敬塾、続いて熊本の細川さんの元屋敷永青文庫、恐怖の胸突坂を下って、神田川にか

かる駒塚橋を渡る。そして・・・自宅に着いた。振り返るとフォーシーズンズホテルの堂々

たる姿が。徒歩6分で非日常から日常へ・・・・。         

                              おしまい

※データ:フォーシーズンズホテル 椿山荘東京 

112-8667 東京都文京区関口2−10−8  

TEL:03-3943-2222 FAX:03-3943-2300

滞在した日/何度も   書いた日/2001年正月

 

     ホテル日記のトップに戻る   夢子倶楽部のトップに戻る