夢子のホテル大好きシリーズ

グランド・ハイアット・福岡 

 1996年だろうか、会議があって福岡に来ていた時、完成したばかりの「キャナルシティ」

が評判だった。みな一斉に「キャナルって何?」と聞き、答える方は「運河。その運河の周りに

映画館、劇場、ショッピング街、ホテルがあるとよ」。少し時間があったので見学に行った。A

MCキャナルシティ博多という映画館が13館集まったシネマ・コンプレックス、劇団四季の常

設館の福岡シティ劇場、ダイエー/メガバンドールキャナルシティ店、キャナルシティ・オーパ

という複合商業施設などがあり、ホテルは福岡ワシントンホテルとグランド・ハイアット・福岡

の2つ。オープン直後ということもあって、新らしモノ好きの博多っ子がどっとキャナルシティ

に押し寄せて、歩くのもままならぬ盛況ぶりだった。それからもグランド・ハイアット・福岡に

は、宿泊するためやパーティがあったりで何度か訪れたが、時折のぞくキャナルシティの人出は

徐々に落ち着いて来ていた。しかし今回は、博多を挙げての「山笠」祭りの期間とあって、キャ

ナルシティはまた賑やかさを取り戻していた。

 正面玄関の車寄せのスロープを上がって行くと、黒塗りのロンドンタクシーがお客を乗せて出

発するところだった。タクシー会社とホテルが契約して、この趣きのあるタクシーをホテル専用

に待機させているのだとか。ロンドンには2度行ったことがあるが、確かにどの国のどの都市で

乗るより、安心して乗ることが出来たのはロンドンタクシーだった。ホテルに入って右斜め方向

に進むと、1階下正面のガラス窓越しに数メートルはあろうと思う大きな噴水が勢い良く上がっ

ている。噴水の近くにも大きな山笠が飾られ、その赤が目に鮮やかだ。ホテルの裏側にキャナル

運河が流れ、地下1階の入り口からも直接入って来ることが出来る。1階のフロアーから堂々と

した階段から降りる地下1階は、「FOOD LIVE/フードライブ」と名付けられたオープンスペ

ースにたくさんのレストランが入っている。見事なのは、吹き抜けの巨大な透明ガラスを背にし

たカジュアルなバー「フィズ」。30メートルはあろうか、それが全部バーのカウンターなので

ある。昼頃からの開店だそうだが午後の遅い時間ちらほらとカウンターで飲んでいる客が座って

いる。1階の正面はティーラウンジ「ラ テラス」。その手前はメインバー「マティーニーズ」

である。

742号室が今回2泊する部屋。安い方のダブルルームで以前泊まった時もこのタイプだった。

シングルユースで1万6千円。カード式キーだが、部屋に入る時カードの表と裏を間違えて差し

込み「開かない!」。エレベーターホールの電話で問い合わせて裏表の間違いを優しく指摘され

た。部屋に入って入り口近くのカードセットにキーカードを入れると電気が付く仕組。節電には

賛成するが、他のホテルで初めてこれを使った時は慣れずに焦ったものだ。入る時はいい。だが、

部屋を出る時にカードを外してまごまごしていると部屋の電気が全部消えてしまう。真っ暗な中

でドアチェーンを手探りで探してやっと部屋を出たなんて恥ずかしい記憶がある。部屋の広さは

30平方メートル位か。比較的バスルームが大きいせいか、居住スペースはとても小さく感じる。

しかもインテリアは超シンプル。おかしな表現だが、昔のCM「マルコメ味噌」の子坊主のよう

に、ツルンとした感じなのだ。不要なものは一切置きません!という設計者の心意気が伝わって

くる。あるものといえば、小さめのダブルベッドとベッド脇の電話台、書き物用の椅子だけ。あ

とはすべてビルトインの家具のように組み込まれている。冷蔵庫もテレビも書き物用デスクも全

部組み込まれている。だから部屋は1箇所を除いて全部直線の並列。例外は、ベッドルームに丸

く張り出した障子デザインのバスルームの一角だけである。壁は木目の違う木の断片を市松模様

に組み合わせたもの。サッパリしている。ごてごてした部屋もいやなので、サッパリコンセプト

はそれでいい。テレビも上の棚に収納されているので、狭い室内ではベッドに寝て見るしかない。

1人で滞在しているからいいものの、ダブルを当たり前に2人で使うとすると椅子が1つしか

無いから、もう1人は立っているかベッドで寝そべるしかないわね。どんな情熱的なカップルだ

って、全部の時間をベッドで過ごす訳ではないでしょ?なんて余計なことを考えてしまう。

右側の上部がテレビ その下が冷蔵庫 障子模様の向こうはバスルーム

 テレビが組み込まれている黒い棚の構造が面白い。上段にテレビ、中断の左にポットや湯呑み

を収納し、右に冷蔵庫がある。棚の真ん中に冷蔵庫があるというのも珍しい。ピール600円、

エビアン350円、ペリエ400円。左のケースにはポットにお湯が沸いていいて嬉しいのだが、

狭い場所をガラス戸で仕切っているから熱が篭っていて、戸を開けるとむっとする程暖かい。そ

のうち棚が歪まないかしら。お茶はほうじ茶と煎茶が2袋づつ。冷蔵庫の下は、ミニバーで13

00円のミニチュアボトルなどが入っている。クドイがテレビはベッドに寝転がって見るしかな

い位置にあるのに、何故かリモコンが作動せず、その度に上の方のテレビモニターに手を伸ばし

てスイッチを切ったりつけたり。やっぱり使いにくいね。

 ベッドルームのサッパリ仕上げに比して、設計者さんはバスルームかなり凝ったようだ。初め

て見たらちょっと嬉しくなる。洗面のシンクを透明のガラス製にしたり、バスタブの水とお湯の

コックを意外な場所に取り付けたり、シャワーブースでなくシャワーコーナーを作ったりして。

しかし、このバスルームも無機質なシンプルさを狙ってはいる。過不足ないアメニティも、ずら

りと並べるのではなく、透明ガラスの棚の下段にさり気無くあちこちにそっと置いてあるような

配慮がある。トイレはシャワートイレ。そのトイレの後ろの壁には、小さなテレビが組み込まれ

ている。組み込むのが余程お好きな設計者ではある。実は今回2泊もしたのに、このバスを1度

も使用しなかった。不潔? いやいや2日ともフィットネスクラブの大きなお風呂に入りまし

たよ。プールに行ったというのがその理由なのだが、朝入ってもいいのに入らなかった。それは

前回泊まった時、このバスがとても使いにくいことを実感したから。お湯と水を調整してバスタ

ブにお湯を入れる。もういいなと思った頃、大きなバスタブに入り手足を伸ばす。あら、ちょっ

と熱いわ、ということで水を入れようとする。でも水のコックは足元のずっと向こうにある。バ

スの中で立ち上がって湯の中を歩くか、座ったままズリズリと足元に寄って来て、手をうんと伸

ばして水を出す。どうしてこんなに遠いところに付けるのでしょう。バスにはシャワーは付いて

いない。家庭用の洗い場のようなコーナーの向こうの壁にそれは取り付けられている。上に固定

式、下にハンド型の2つ。だから洗髪する時は、バスタブを出てそちらに移動しなければならな

い。面倒くさい。湯を抜いたらバスタブの中をざっと洗うのがマナーだと思うが、洗うにはハン

ドシャワーをぐっと伸ばして来て水撒きの要領で洗わねばならず往生した。使う立場に立ったら

この設計は無いと思うのだけど。私だけでしょうか、こんな不満を感じるのは。2年半前のこと

なのに、このバスルームを使って困ったことをはっきりと記憶しているのも変かしらね。ついで

に言えば、ガラスのシンクも小さすぎて、洗顔するとあちこちに水が飛び散る。

お洒落なシンク・・ 栓が遠すぎます! バスの隣シャワーコーナー トイレ上に据え付けテレビ

 4階にフィットネスセンター「クラブ・オリンパス」がある。運動ギライなハズなのに、宿泊

するホテルにプールがあると嬉々とするオカシナ性格である。荷物に水着をしのばせ、早朝であ

っても時間を作って行く。4階のエレベーターを降りると左手に高野由梨ビューティクリニック

とビューティサロン「シャイニング」、右手にクラブの受け付けがある。宿泊客の利用は3千円、

使うロッカーの番号を告げられる。ロッカールームの奥は、ほの暗い照明のリラクゼーションル

ーム。黒い皮のゆったりしたチェアが8脚とテーブルと椅子、何種類かの雑誌が置いてある。飲

み物は冷蔵庫に入っていて有料。突き当たりはスパである。左手のロッカールームの出口からプ

ール、アスレチック・ジム、エアロビクス・スタジオに続く長い廊下に出る。この廊下が立派で

「本気で運動するつもりなのだろうな!」と試されているような気になる。やがて右手のガラス

越しに気持ち良さそうなプールが見える。うん、いい感じ。プールサイドに監視員的係りのお兄

さんかお姉さんがいて、リストに氏名、男女別、会員かゲストか宿泊客かの別、プール使用開始

時間を記入する。プールは4コースで、2コースが25メートル、残り2コースが20メートル

と変形である。先客の2人の男性が黙々と25メートルコースを使用して泳いでいる。仕方なく

20メートルコースで水中ウォーキングを開始。いつも25メートルで2往復すると100メー

トル、10往復で500メートルと頭に刻んで歩くので、換算するのが面倒だ。水深が浅い。1

メートル15。普段歩くプールより15センチ浅いので、確かに歩くには楽だ。プールの周囲に

は、寝心地の良さそうなデッキチェアが並べられ、プールの脇には勢い良くボコボコと泡を湧き

出すジャグジーがある。窓の外には、福岡シティ劇場の入り口が見えて、ライオンキングを観に

来た子供達の姿がある。キャナルシティにもう1つあるワシントンホテルの客室窓がすぐそこに

迫っていて、アチラのお客と目が合ってしまいそうだ。そうこうするうちに、先客の2人はアッ

サリ帰ってしまい、25メートルコースに移動。たった1つだけ出来る背泳で泳ぐ。水深が浅い

というのは泳ぎにくいですねぇ。それにプールの殆どの天井がとても低く、背泳する私は天井を

見つめて泳ぐので圧迫感がある。その低い天井は窓側に行くと六角形に切られて吹き抜けになっ

ている。何往復かしているうちに、ガヤガヤと賑やかな3人連れの客が来て大騒ぎをした上、あ

っという間に帰ってしまった。もう1人後から来て静かに泳いでサッと帰った男性もいたし。サ

ンプル数6だが、ここのプールの利用者はほんとに短時間滞在だなぁ。よく「ひと泳ぎしてくる

か」と言うが、その言葉に忠実な人ばかり。「ちょっと一杯やりませんか」の誘いが一杯で終わ

った例を知らないが、ここのプールではあるんだね、と妙に感心してしまう。

 プールの後はスパに行く。ドライとミストのサウナ2種、8つの洗い場の真ん中に丸いジャグ

ジーの大きな湯船と両脇にぬるま湯と水の小さな湯船がある。湯船は何故かちょっと高いところ

に鎮座していて階段を2〜3段昇って入る。大型フェリーの湯船にそっくりだな、と随分昔に乗

ったフェリーのお風呂を思い出した。今回はプールだけしか利用しなかったが(いつもどこでも

そうなんだけど)、「クラブ・オリンパス」の施設を3千円で使えるなら安いものだと思う。で、

滞在中2回も行ってしまった。

リラクゼーションルーム          プール       突き当たりがジム 

今回3度ホテル内で食事を取った。ホテルのレストラン・バーは、前述した以外にメインダイ

ニングとしては珍しい広東料理「Chi-na /チャイナ」、ヨーロピアン・レストラン「 Aroma’s

/アロマーズ」があり、他にテナントとして5階に和食の「なだ万」と鮨の「清水」が入ってい

る。夕食をどこで食べるか。広東料理のメインダイニングというのも関心はあるが、一人で中華

はやっぱりね。ということでメインバーの「Martini’s/マティニーズ」で飲みながら食べるこ

とに決める。店の名前は有名なカクテル、マティーニから取っている。午後6時半からの開店と

いうので、7時過ぎに行くと本日1番目の客になった。入り口に巨大なシャンパンの空き瓶が目

を引く。店に入ると細長く狭い印象があるが、L字型の構造で奥に広いテーブル席があって全部

で69席ある。1人だから、もちろんカウンターに座る。未だ客がいないので、5人のスタッフ

はレモンの皮を細長く剥いたりして準備に忙しそうだ。食事は野菜スティック、スモークサーモ

ン、クラブハウスサンドイッチを頼んだ。フード類はバーの前にあるアロマーズの厨房で作った

もの。野菜スティックが背のド高い器に入って来て笑ってしまう。料理が出て来るまでにかなり

時間がかかるから、ギネスビールから始めた酒もジントニック、ロングアイランド・アイスティ

等どんどん進む。最後はやっぱり店名のマティーニを思い切りドライにして貰って飲むことにし

よう。聞いてみると、たいがいの客はやっぱりマティーニを注文するそうだ。背の高い幅広のグ

ラスで出て来たマティーニ。ジンがキリッとしていて美味しかったが、グラスの幅が広すぎるた

めに、半分位口の両脇からこぼれてしまったことが悔やまれる。

  野菜スティック             スモークサーモン   クラブハウスサンド   マティーニ

 2日目の朝ご飯は「なだ万」で。5階にはリージェンシークラブのクラブラウンジがあって、

高い部屋に泊まる替わりに無料の朝食やお茶を飲むことが出来る。普通の部屋に泊っている私は

クラブラウンジを横目で見ながら和食を食べに行く。帝国ホテルのなだ万で懐石料理を食べたこ

とはあるが、朝食は初めてである。喫煙と禁煙で部屋を分けているらしく、喫煙派の私は左側の

部屋に通された。意外と狭い。普通のご飯とお粥があるが、と中国系らしい女性が聞きに来る。

ご飯にした。大きなお盆で運ばれて来た和食膳はオカズが多くて立派。ご飯は小さなお櫃に入っ

ているから「お替りをどうぞ」とは言わない。焼鮭、野菜の炊き合わせ、博多らしく明太子と大

根おろし、冷奴、温泉卵、魚の佃煮、焼海苔、漬物、なめこの味噌汁。ここで面白いのは「お薦

め」というサイドメニューがあることだ。生卵、奴豆腐、納豆各200円。これだけオカズがあ

るから頼む気は無かったが、これがオススメかしら。コーヒーは500円だが定食を食べると3

00円。味はどうか。全体的には安定した味付けだが、温泉卵を除けば味の濃いものが多くてご

飯が進み過ぎる。ホテルの案内には、連泊客のために料理を変えるので予め申し込めとあったが、

季節ごとに少々の変更はあっても基本的には料理の内容は同じようで、ちょっとがっかり。これ

で2200円。朝7時から10時までが朝食タイムだが、料理を出してしまうとそれっきりとい

う感じでサービスが良いとは言えない。

向こうの部屋は禁煙室らしい

 3日目は1階の「アロマーズ」。午前6時半から10時までの朝食タイムでは、アラカルト料

理もあるが、多くの客は2200円の和洋食ヴッフェを選ぶ。喫煙組は、地下1階を見下ろせる

バルコニーのような席に通される。眺めは良いが、料理から遠く不便。喫煙組を見ると、隣にフ

ルーツをどっさり取って来た韓国ビジネスマン風の4人組、コーヒーとソーセージを1本しか食

べなかったアメリカ人らしい男性1人、東南アジアの母、娘、孫の女性3人組と国際色豊かな顔

ぶれだった。周囲が国籍豊かだからと言う訳でも無いが、私が取って来た料理も和洋食の混合。

ここのパンは、地下1階にあるホテル直営のベーカリー「シナモン」で焼いたもので種類が多い。

 サービス面について触れたい。結論から言えば良い。まず予約時に依頼したベッド周りの注文

(そば殻枕、毛布2枚のベッドメーキング)は、そば殻枕が高過ぎるといういことは別としてチ

ェックイン時にちゃんと出来ていた。「クラブ・オリンパス」のスタッフの対応も良い。フロン

トのサービスは標準だが、フロント周りにパンツ姿の女性中心のスタッフが活躍している。ホテ

ル用語で言えばベルスタッフなのかしら。フロントと客室に行くエレベータホールの真ん中にい

ることが多いので、つい彼女達に質問をしたり、相談に乗って貰うことになる。2日目の朝、福

岡は大雨だった。仕事に出掛けるのにどうしようと思案していたら「傘をお貸ししましょうか?」

のひと言で助かった。どこかに忘れてははならないと、「グランド・ハイアット」の名入りの傘

を一日中握り締めていた。2晩頼んだマッサージも45分4700円で午前2時まで来てくれる。

お2人とも、マッサージの腕も確かで会話も楽しかった。今回利用しなかったが、ルームサービ

スも日曜から木曜までは午前6時半から午前零時まで、金土曜日は午前2時まで頼むことが出来

る。福岡には、博多駅の近くに「ハイアット・リージェンシー」もあるが、キャナルシティとい

う若者に人気のある場所で大人向けの落ち着いたホテルを楽しむ、というギャップが面白い。

 客室からキャナルシテイを臨む

                            おしまい

泊った日/2001年7月         書いた日/2001年8月

グランド・ハイアット・福岡:〒812−0018 福岡市博多区住吉1−2−82

電話092−282−1234  ファックス092−282−2817

 

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