夢子の宿大好きシリーズ

                       扉温泉 明神館 

山間の2軒宿扉温泉

信州の松本から東方面に車で30分。八ヶ岳中信高原国定公園の一角で、少し行けば美ヶ原高原への

ヴィーナスラインに出られる場所ではあるが、景色が良いわけでもない標高1050メートルの山間に扉

温泉がある。さほど大きくはない薄川(すすきがわ)の渓流沿いに、明神館と群鷹館の2軒宿。扉温泉

の「扉」の名称は、天照大神がお隠れになった岩戸伝説から来ているようだ。岩戸を持ち上げた天手力

男命(アマノタヂカラオノミコト)が「エイッ!!」と投げた岩戸(扉)は、よく言われるように戸隠山になっ

たのではなく、ここ入山辺山中に落ちた、ということで。近くには、扉峠もある。

松本駅から午後3時発の迎えのシャトルバスに乗って明神館を目指す。ウツラウツラしているうちに到

着。鬱蒼とした木々の間に、建物が所々見えるだけで、宿の全景は掴めない。左手に「親湯 明神館」

の看板、小さな道祖神の脇には、渓流沿いにある露天風呂に続く階段が下りている。玄関には、金ピ

カの丸い看板に「menber of THE CHARMING HOTELS」の文字が。玄関ではちょっとした騒ぎ。一

緒にシャトルバスに乗って来た年配の男性が、玄関の段差に躓いて転ばれていた。私も気をつけなく

ちゃね。名前を言って靴を脱ぐ。スリッパは男性用と女性用の大小がある。予め案内担当が決まってい

るらしく、若い男性が「夢子さま、お部屋までご案内します」と荷物を持って案内してくれた。

  

1台だけのエレベータが一往復するのを待って4階へ。建物は4階建てで、客室は2階から4階にある。

エレベータを降りてから広い廊下をクネクネ延々と歩く。平成5年に改築して本館の建物が完成し、以

後何度も増築を続けて来たようで現在客室数は45室126名の収容力がある。今日から2泊する部屋

は御鷹棟の「408号室 椈の間」。彼がドアをサッと開けると、黒い御影石の床からパワーッと埃が舞い

上がった。おいおい、大丈夫か?洋間ベッドルームの奥のリビングでチェックイン。私が宿帳を書いて

いる間に担当お兄ちゃんはお茶を煎れ、館内のこと、部屋のことなどコト細かく説明してくれる。そんな

にいっぱい一度に言われても覚えられませーん、だいたいわかったからアリガトネ。居間の大きな窓か

らは一面緑だ。下に薄川の渓流が流れ、窓を開けるとゴウゴウと音がする。茶系のスェードのような生

地の2人がけソファ。窓の脇にはオットマンつきのチェアがある。部屋の隅には白い大理石風の暖炉。

中には薪が積み上げてあったが、冬季に使用するかどうかは不明。右手には熱いお湯が沸いている

ポットと冷たい水のポット、お茶は煎茶とほうじ茶の茶筒があった。台下の左に金庫、右側には冷蔵庫。

彼の説明では「ご自由にお飲みください」とのことだったが、後で説明を読んだら有料だった。なーんだ。

ただし、飲み物の料金表はない。

入り口に近いベッドルームとの仕切りは障子戸。部屋全部がフローリング床である。セミダブルのベッド

が2つ。ベッドは、5ッ星ホテルでも利用しているアメリカ・シーリング社製でやや固め。掛け蒲団は真綿

を使っている。枕はベッドに2つずつあり、片方が蕎麦殻が入っていて嬉しい。ベッド真向かいの箪笥

の上には、液晶テレビと変わったアンプがある。ひょっとして、とよく見れば、SW製の真空管アンプで

はないか!アンプの上に手を翳すとアンプの熱が伝わって来る。同じくSW製のスピーカーにDENON

製のDVDプレイヤー。「LAKESIDE RETREAT」のCDが置いてあり、滞在中何度も聴いて楽しんだ。

アンプは3万9800円だそうで、CDやDVDのソフトは1階のフロントで貸してくれる由。

  

  

  

  

部屋はベッドルーム18.50u、リビング16.30uと全体的にゆったりと広いが、それはバスルームや洗

面所も同じこと。洗面のシンク台もゆったり、仕切られたトイレもゆったり、ガラス戸で仕切られたバスル

ームはもっとゆったり。温泉がいくつもある宿なら、部屋の風呂は「一応ある」だけのところが多いが、こ

こはちょっと立派過ぎはしないか。私は写真を撮った以外、2泊3日一度もバスルームを利用しなかっ

た。アメニティグッズは、カット綿・爪やすり・耳かきなどが入ったレディスセットの袋、シャワーキャップ、

歯ブラシ、固形石鹸だけで多くはない。タオルは「扉」の文字が入ったバスタオルとフェイスタオル。温

泉に行く時は、このフェイスタオル持参である。トイレは、松下電工製のシャワートイレであった。

部屋の玄関を入ると、板の間に大きな木製の洋箪笥。ギギギギという音と共に戸を開けると、左手はク

ローゼット、右手は棚がいくつかあり、2枚の浴衣、赤い羽織り、赤い帯、足袋、ビニール製の温泉袋、

部屋で使うバスローブ、タオル生地のスリッパがあった。お兄ちゃんの説明では、館内は浴衣姿でどう

ぞ、ということだった。ま、温泉は普通そうだわね。

  

  

  

何と言っても風呂がいい!

風呂は4つある。3階本館湯殿「白龍」男女(露天風呂付)、3階立ち湯「雪月花」男女(サウナ付)、3階

寝湯「空山」男女、1階川沿い露天風呂混浴。「白龍」と「雪月花」は24時間入浴可能で、「空山」と川沿

い露天風呂は、日の出から午後23時まで。川沿い露天風呂は、午後7時半から9時半まで女性専用

時間が設けられていたが、その頃は毎日酔っぱらっていて、一度も入ることがなかった。泉質は、弱ア

ルカリ性単純泉で無色無臭。アッサリとしたお湯だ。風呂場には、バスタオルはたくさん置いてあるが、

フェイスタオルは部屋から持参しなければならない。最初は良いのだが、何度も入るとなると濡れたタ

オルを持っていくのがどうもね。しかし、温泉に来たら、最初だけはカラダや髪を洗っても良いが、2回

目以降は温泉に浸かるだけの方が効力が効いて良いのだよね。本館湯殿「白龍」は普通に気持ち良

かったが、立ち湯「雪月花」の気持ち良さは特筆もの。浴室に入ると正面が開放されて緑の美しさが目

に飛び込んで来る。長方形の湯船の外側が深くなっていて、お湯は胸の高さ。ここで顎を湯船の縁に

置いて、外の景色を楽しむ。景色はゴウゴウと流れる渓流と山の緑だけ。至福の時である。いつも混ん

でいるので、一人風呂を狙うなら深夜か早朝、あるいは連泊した昼過ぎがいい。早朝、昼、夕刻と何度

も行ってみたが、その度に温泉湯に映る景色が違ってナルホドと感心した。寝湯「空山」は、半身浴に

最適で、ゆったり斜めの湯船に寄りかかって楽しむ。寝湯「空山」の上には、アロマテラピーがあるが、

大人気でかなり早め(1ヶ月前から受付)に予約しないと施療は受けられない。私などおっとり刀でいた

ら、全く取れまへんでした。

○本館湯殿「白龍」 3階 男女別 24時間入浴可

メインとなる大浴場。男女風呂の前には、広めのラウンジがあり、待ち合わせをしたり、汗が引くまで雑

誌を読んだりできる。風呂場の洗い場には、良い香りのシャンプー、コンディショナー、ボディシャンプー、

クレンジングソープあり。露天風呂が併設されている。脱衣所の洗面台は広く、各種化粧品、ヘアブラ

シ、ドライヤー完備。冷たいウーロン茶の自動サービスあり。

  

  

○ 立ち湯「雪月花」(下の段右は川沿い露天風呂) 3階 男女別 24時間入浴可能

左から早朝、午前中、午後の立ち湯の風景。気温や太陽の角度で湯船に映るものが違うのが楽しい。

一番外側に立つとお湯は胸あたり。ここで腕を組んだ上に顎を載せて渓谷の景色を楽しむ。洗い場と

サウナが併設されている。大人気の風呂。

  

  

○ 寝湯「空山」 3階 男女別 日の出から午後11時まで

前方部は風呂として普通の深さだが、後方部はベンチ状になっている。ゆったり寄りかかって半身浴を

楽しむ。シャワー1基のみ、洗い場は無し。上階は人気のアロマテラピー(右写真が入り口階段)。絶対

受けたい人は早めの予約をね。予約は宿泊日の1ヶ月前から受け付けているそうだ。

  

懐石料理に、フレンチも加わって

食事は部屋食ではなく食事処で。どうしても自分達だけでという人のためには、個室の座敷や宴会場

もある。食事処は4ヵ所。食事の基本は懐石料理だが、2階の「観望」と「屋敷」、4階の「ダイニング四

季」で楽しめる。また1階にはオーガニックフレンチレストラン「菜」があり、最近ガラス張りのテラス席(3

テーブル)も完成した。「地産地消」ということで、野菜は88歳になる会長ご夫妻が丹精する畑で採れた

もの、米も自家栽培。川魚や山菜は近隣の川や山のものを。それ以外の食材も、地元松本産・長野県

産のものを使うという徹底ぶりだ。2泊するので、予約時に1泊目の夕食はフレンチ、2泊目は懐石料

理を予約した。特にフレンチは席数が少ないので予約するのが賢明。フレンチのコースの感想を言え

ば、とにかく野菜が美味しい。ビニール栽培の野菜に慣れてしまって、野菜本来が持つ香りや土臭ささ、

甘さを忘れてしまっていたが、「これが人参、これがトマト」とひと口食べる度に感動を覚えた。この素晴

らしい野菜料理を食べただけでも「明神館」に来た甲斐はある。そして最後のデザートが唸る程美味し

かったぞ。夕食は午後6時から8時までの間、好きな時間に行って良い。

オーガニックフレンチダイニング「菜」 

フレンチコース:鱧・活蛸・糸瓜・ジュンサイを梅肉とやさいのジュレで、ブリオッシュとバター、畑からの

贈り物(カボチャ・オクラ・人参・ヤングコーン・トマト・昆布〆平目 赤ピーマンのムースとビーツとディル

のソース添え、パスティヤージュ、スズキのグリエ フルーツトマトとハーブのソース、グラニテ:山葵と

グレープフルーツの氷菓、仔羊のロースト 燻製ソース 甘酢付け無花果と茄子のピューレ添え、甘い

誘惑:桃とメロンのスープ ミュスカのジュレで アカシアと蜂蜜のアイスクリームを添えて、ハーブティ、

ヱビスビール750円、赤ワイン 6930

  

  

  

2日目の懐石料理も良い。夕刻客室に特別料理の案内の紙が入っていた。この辺りは松茸がたくさん

採れるらしく、松茸料理がラインナップされている。焼き松茸、松茸の天麩羅、松茸入りの大きな茶わん

蒸し。1人前なら2900円とあるので、焼き松茸を注文した。ただでさえ、料理の数が多かったのに特別

料理まで追加してしまい、最後はお腹がハチキレそうになった。

「観望」 

懐石コース(梅酒、萩豆腐、前菜:秋刀魚小袖鮨・柿サーモン・錦秋和え・衣かつぎ・冬瓜海老、松茸と

鱧の土瓶蒸し、造り:鮪・鯛・紋甲イカ・ヒラマサ・帆立、(特別注文料理:焼き松茸 2900円)、落ち鮎の

塩焼き、揚げ物:舞茸の箕揚げ、蒸し物:男爵芋吹き寄せ、強肴:信州牛ロース網焼き、松茸ご飯、香

の物、味噌汁、デザート:芋羊羹とメロン、コーヒー)、生ビール700円、冷酒 「宿の舞」 3000

  

  

  

  

朝ご飯の会場は、2階の「観望」と4階の「ダイニング四季」。夕食が終わったところで、今晩のメニュー

と翌日の朝食会場を書いた紙を渡される。2日目の朝は「ダイニング四季」で、3日目は「観望」だった。

新鮮なミルクにレモンと蜂蜜を入れたレモンミルクで朝食は始まる。これが実に旨い!煮物は同じだっ

たが、連泊した客には料理を替える心遣いがある。因みにご飯は、最初の日が麦入りご飯、次は玄米

入りご飯であった。デザートとコーヒーがつくのも嬉しいサービスである。朝8時から10時までお好きな

時間に。私個人の希望としては、朝飯の開始はもっと早い方が良いのだが。

「ダイニング四季」

朝食セット(レモンミルク、温泉卵サラダ、手造り豆腐、モロッコ隠元の胡麻和え、鶏のゲンコツと野菜

煮、焼き太刀魚・蒲鉾・山葵漬け、漬け物:野沢菜と梅干し、麦入りご飯、味噌汁)、ブドウ、コーヒー

  

「観望」  

朝食セット(レモンミルク、焼き鮭ときゃら蕗、揚げ出汁豆腐、トマトとスモークサーモンサラダ、鶏のゲン

コツと野菜煮、エノキ茸おろし、山芋タラコ、焼き海苔、玄米ご飯、味噌汁、漬物)、柿と黄桃、コーヒー

  

  

昼食は、フレンチのランチコース(4200円、6400円の2コース)か蕎麦。朝ご飯の代わりに、11時半か

らフレンチのブランチという手もあるらしい。そうしたい方は宿に問い合わせてみてください。毎晩、夕食

を食べて部屋に帰ると夜食が入っている。焼きおにぎりとかお稲荷さんとか。嬉しい心遣いと思うもの

の、まだ喰わせて太らせるのか!と思わないでもない。2階には、雰囲気の良いバーラウンジ「ロマン

亭」もある。夜10時までチーズ盛り合わせ、イベルコ豚の生ハムなどのツマミと飲み物のルームサービ

スも有り。 

ゆったりした共有スペース

宿やホテルにとって重要なことの一つは、ゆったりできる共有スペースがあるかどうか。ある宿では、そ

ういった共有スペースがほとんど無く、狭い客室と風呂場以外行くところが無いという閉塞感を感じた。

それでは「明神館」ではどうか。これがいろいろあるのだ。玄関ロビーは広い。喫煙所も兼ねたゆったり

したラウンジが2つもある。広々とした茶室もある。魅力的な商品が並ぶ売店もある。談話室では雑誌、

書籍が並び、インターネットも利用できる。部屋の片隅には、無料のコーヒーが用意されている。一番

魅力的な場所は、談話室から突き出たテラス。木の魅力に満ち溢れ、真空管アンプとスピカーは静か

な音楽が奏でている。このテラスの椅子にゆったり座って、本を読んだりうたた寝したり。至福の時であ

る。

循環させる宿

近所を散歩する。渓流沿いに歩いても山ばかりで何もない。ちょっと登ってみようか。やや、何かあるぞ。

「明神館」の自家発電装置だった。二酸化炭素の排出を抑えるために、LPガスで発電しているのだそう

だ。山を下りてちょっと歩くと、今度は生ゴミ処理機があった。肥料にして畑で野菜を育てる。料理に使

った食材の残りを、その肥料にしてまた食材の野菜を育てるというワケだ。これは循環、エコ旅館だ。

鬱蒼とした緑から見える木洩れ陽、咲き乱れる秋桜、揺れるススキ、渓流のせせらぎ・・・。何もない山

奥の自然をそのままにするには、「明神館」のタイヘンな努力があるのだね。

  

  

70年以上の歴史がある

「明神館」の創業は1931年。宿のホームページでその歴史を証明する写真の数々を見ることができる

が、ちょっと大きな民宿といった建物で、農閑期に土地の人が温泉を楽しんでいる風情だ。初代の斎藤

武重さんが冒頭に書いた扉温泉の由来から、神様たちの宿という意味で「明神館」と命名した由。76年

に建て替え、現在の「明神館」の姿になったのは1994年。その後も談話室や青龍庵などを増設したり、

フレンチを始めたりと進化を続ける宿のようだ。温泉旅館だから和室が基本であるが、私が泊まった部

屋のように洋室もあるし、癒し風呂が部屋についているタイプもある。1人で行くもよし、2人で行くもよし、

大勢で行くもよしの「明神館」。松本から車で30分と交通は便利とはいえない。でも大丈夫。松本駅か

ら無料のシャトル送迎バスがある。緑のバスに乗って、また「明神館」に行こう。今度はどの季節にしよ

うか。                                                     おしまい

    送迎はこのバスに乗って

             _________________________

扉温泉「明神館」データ

390-0222 長野県松本市入山辺 8967  電話:026-331-2301  ファクス:026-331-2345

チェックイン:15:00  チャックアウト:正午

料金:部屋タイプ、3シーズン、人数によって変わります。詳しくは下記ホームページで確認してね。

    因みに、私は洋室に1人で泊まり、宿泊基本料3万5800円(サ・税込み @1泊2食)でした。こ

れに入湯税 150円がプラスされます。

交通:松本駅から車で30分、松本ICから35分、松本空港からタクシーで50分

「明神館」のホームページ:  http://www.tobira-group.com/myojinkan/index.htm

泊まった日:平成17年9月   書いた日:平成17年9月

 

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