夢子のホテル大好きシリーズ

奈良ホテル

 絵になるホテル。かつての麻布プリンスホテルや蒲郡プリンスホテルと共に、古い木造建築

の建物に昔から惹かれていた。最初にこのホテルに泊まったのは、平成の時代になって未だ間

もない頃だった。年末の夜11時を過ぎて空腹で到着し、チェックインして食事を摂れるか質

問すると、レストランもルームサービスもすべて終了しました、と言われ、憧れだった赤い絨

毯が敷かれた階段をしょんぼりと上った記憶がある。近鉄奈良駅から県庁方面に向かう。まっ

すぐ行けば東大寺だ。右折すると左手は奈良公園が広がり春日大社に続く。右手に興福寺の五

重の塔が見えて来る。角に友人が結婚披露宴をやった菊水楼があり、その向こうは荒池となる。

荒池の先にこんもりとした大きな林があって、その中に奈良ホテルはある。まさに古都・奈良

の歴史的・文化的な環境の真中に奈良ホテルは建っている。

歴史に囲まれて

 車の行き来の激しい大通りから一歩ホテルの敷地に入ると静寂が追いかけて来る。だらだら

した坂道を上っていくと、突如明治時代に舞い降りたかと思うようなホテルの建物が現われる。

1909年、明治42年創業、桃山御殿風総檜造りの木造2階建ての建物がドドド〜ンと目の前に

ある。あぁ、奈良ホテル、と素直に感動する佇まいである。建物に入ってもシックな雰囲気は

変わらない。意外な感じもするが、ここは都ホテル&リゾーツの一員である。チェックインす

ると、私が泊まる部屋は新館だと言われた。う〜ん、前回は本館だったから吉野地方の建築様

式の吉野建てで作られた新館も見てみたいという気持ちはあるものの、やはり奈良ホテルでは

本館に魅力を感じる。我儘を言って予定の部屋を代えて頂いた。初老の案内係りの方について、

あの赤絨毯の正面階段を上がる。前回は空腹でしょぼしょぼしていたが、今日は元気良く。階

段の踊り場に銅鑼があるのだが、由緒あるものかどうかは聞きそびれた。暗い本館の廊下を辿

り、2階のダブルの部屋へ。室内に入るとすぐ気がつくのは天井の高さだ。4メートル位はあ

るだろうか。そこにシャンデリアが下がっているのだが、部屋の電気を全部つけないとかなり

暗い。部屋の中程右手には、火はついていないがマントルピース。その代わり、ラジエーター

が部屋を既に暖めていた。前回泊まった時もこのラジエーターの記憶はある。暖房が切り替わ

る時に独特の音がするのだ。話は横に逸れるが、大学受験の時、ある大学で割り当てられた席

がラジエーターの隣だった。当時大学紛争が盛んで機動隊に見守れての受験だった。昼休みも

大学構内にいなければならなかった。母が張り切って、特大のお弁当を作ってくれた。そのお

弁当を食べて、私は午後の国語の試験で大失敗をした。お腹が一杯で温かいラジエーターの隣

の席で長文読解の長文を読んでいるうちに、夢の世界に行ってしまった。ふと気がつくとヨダ

レを垂らして昼寝したいたことに気がつく。時計を見るともう7分しかない。一番得意な国語

がそんなだった。ま、昔のことだ。

ベッドはダブルにしては少し狭いかという幅。そこでハッと気がつく。予約時いつもの蕎麦

殻枕などの特別なベッドメーキングをお願いしていたのに、突然部屋を代えてしまったことに。

その時電話が鳴る。電話はマントルピースの上にあり、モーニングコールをセットすると、ベ

ッドから起き上がって1歩歩かないと取れない距離。「お部屋を変更したので、ご要望のベッド

メーキングはご夕食の時にさせて頂くことでよろしいでしょうか?」。さすが奈良ホテル。私よ

り先にそのことに気がついてくれた。小さめの三面鏡があって、今の時代では、とても懐かし

い。ドアはオートロックだが、チェーンはついていない。

   

      桃山御殿風総檜造りの建物がステキでしょ? ため息が出る

     天井の高い室内はシックでもとめられている

                懐かしい三面鏡   火は無いがマントルピースが時代を感じさせる

     

     これがラジエーター、バスルームにもある      ラジエーターの他にエアコンもある

 前回来た時のバスルームが妙に印象的だった。少し寒い浴室に、旧式の洋式バスタブがタイル

張りの床にちょこんと鎮座ましましていたような・・・記憶がある。その後で行ったポルトガ

ル・ブサコの宮殿ホテルでも、そんなバスだった。部屋の真中にポツンと置いてある風呂に入

ると何故か落ち着かないのだ。誰かが後ろに隠れているような錯覚に陥る。でも、今回の部屋

は違う。あれから改装をしたのか、部屋ごとに違うのか、それとも私の記憶違いか。バスタブ

のカタチは古いもののヨスガを醸し出しているが、バスルームの奥にしっかり設営されていて

安心出来る。トイレもシャワートイレになっている。洗面台だけが小さくて低いので、洗面す

る時はチト不便。ラジエーターが働いているから、すぐ上に掛けてあるタオル類はぽかぽかで、

とても温かいバスルームになっていた。タオルの厚さは普通だが、小さい。アメニティは標準

的。電話、体重計は無い。変わったところでは、部屋のバスルームの近くに脱衣用の籠が置い

てあり、建物を抉ったようなクローゼットに大きく畳んだバスローブが備えてあるなど、この

ホテルならではのやり方がある。

  

   

   

   浴衣とバスローブはこんな形で 部屋の凹みのようなクローゼット  脱衣用の籠

 お茶は、梅すがたという梅茶が2つ、宇治茶が4つのティーバックがあった。お湯はポット

に沸いている。冷蔵庫の飲み物の品揃えは標準的で、ビール500円、ミネラルウォーター、ソ

フトドリンク類は300円。お湯の他にもう1つポットがあって氷水が入っているのが、他のホ

テルに無い嬉しいサービスであった。ルームサービスは、午後4時から午後10時半まで。

  

レストランでの食事

 この夜、友人のお母様とホテルで食事を摂る約束だった。場所は新館地下1階の和食レスト

ラン「花菊」。前回このホテルに泊まった翌日、その友人の家にお招き頂き、お母さまの歓待を

受けた。懐かしい再会である。レストランに入るとすぐ左手は鮨カウンターになっており、ビ

ジネスの会食をしているらしい男性が数人鮨をつまんでいる。奥のテーブル席の中程には、

良の地酒祭りということで奈良で作られている酒の瓶がツリーのように飾られていた。さて、

食事はどうしよう。アラカルトも注文が面倒なので、季節らしく梅をテーマにしたという風コ

ースをお願いする。初めて食べたのだが、黄色の蝋梅をかけた白魚の先付けからコースは始ま

った。前菜(海老水仙、蕨イカ、鰯有馬煮、菜振り海鼠、梅花大根)、うぐいす仕立ての吸い

物(つらら蛤、梅生麩、ふきのとう)、お造り(鰤、平目、ぼたん海老)、焼き物(鴨南蛮焼、

のびる、もろみ味噌)と続き、蟹、鰆、白菜、水菜、京葱、えのきだけ、豆腐の入った雪見鍋

を柚子胡椒で食べると冬の名残を感じる。奈良の地酒の中から燗酒で御代菊や冷酒の慶雲長龍

を飲む。河豚の白子射込みと椎茸揚げ、酢の物、粕汁、ご飯、香の物とお料理は進んで、最後

は月ヶ瀬梅ゼリーという結構なコースであった。奈良と三重の県境にあるという梅の名所の月

ヶ瀬にいつかは行きたいと思っている。

    

      

    

 お母さまをお送りした後、バーに行く。正面玄関から入ると突き当たりが「ザ・バー」であ

る。営業時間はごご6時から11時まで。ほの暗い照明のバーを突っ切って、庭に面した席に通

される。テーブルごとに灯された小さな明かりが目に優しい。メニューは木製の表紙だ。神戸

の西村珈琲店みたい。ミックスナッツとジントニックを注文。冬場とあって、バーには他の客

はいない。うっすらと見える暗い庭に面したバーで、ナッツを噛む音だけが響く静かな静かな

バーであった。カウンターがあるともっと良いのだが。バーの隣にティーラウンジ、その隣に

ラウンジの桜の間があり、朝は新聞を読んでゆっくりするお客の姿が見える。桜の間には15

分おきにオルゴールが鳴る平安の柱時計があって、天皇陛下ご夫妻がお泊りになった際、美智

子皇后陛下がわざわざオルゴールが鳴るのを聞きに朝お見えになったそうだ。

    

                 ザ・バーの木製のメニュー

    

    桜の間の向こう側がティーラウンジ          桜の間

 朝食は、本館1階にあるメインダイニング・三笠で。前日茶粥を予約しておいた。前回来た

時は、混雑した格式あるこのレストランでアメリカンブレックファーストを食べた。前夜から

腹ペコだったのに、それほど美味しいとは思わなかった。サービスは朝7時半から始まるが、

開店してすぐ行くと朝陽が燦燦と差す窓側の席に案内された。未だ早いせいか、家族連れが数

組いるのみだ。高い天井に和風のシャンデリアが連なった広々としたこのレストランには、横

山大観、川合玉堂、竹内栖鳳など錚々たる日本画家の巨匠達の絵があるばかりでなく、1922年

ドイツ・ハンブルグの工場で作られた日本で最も古いスタンウェイのグランドピアノが置いて

あるなど、まさに奈良ホテルの真髄を集結させた格好である。茶粥は、最初の一口が良い。ほ

んのりと茶の香りと独特の渋みと甘さがある。何口も食べていると口が慣れてしまって普通の

お粥のようになってしまうのだが。2200円の定食だが、おかずもあっさりしたもので、朝から

満腹になるということは無い。気持ちの良い空間にもう少しいたくて、別料金400円で追加

してコーヒーを楽しんだ。

  

  

           日本画の巨匠達の作品が展示されている

  

        2200円の茶粥定食(要予約)、コーヒーは別料金

ホテルの中も外も博物館のよう

 朝食のあとは、館内とホテルの庭を散策しよう。ホテルの中を歩くだけでも十分に楽しい。

ロビーフロントの前のマントルピースには火が赤々と燃えるイミテーションがあって雰囲気を

作っている。その左手の壁には、美人画の巨匠・上村松園の絵がさりげなく飾られている。赤

絨毯が敷かれた中央の広い階段を上っていくと、吹き抜けになった広い空間に時代を感じさせ

るシャンデリアがぶら下がっている。階段の欄干には古都らしいデザインが施されている。2

階のロビーの両端に椅子とテーブルのセットが置かれていてゆったりした空間だ。壁には、作

者がどなたかわからなかったが、大きな絵が飾られている。

  正面玄関を入るとこの階段がある      上村松園の絵が飾られている

  吹き抜け階段のシャンデリア                2階ロビーの展示絵画

 敷地は1万坪あるという。気持ちの良い朝、ホテルの周囲をぐるりと歩いてみた。ホテルの

正面側を下りて行くと庭園内に聖ラファエル教会があって、何だか奈良ホテルの雰囲気には合

わないが、結婚式需要を考えれば必要な施設なのだろう。そのためにホテルとはかなり離れた

場所に作ったのかもしれない。どこからでも絵になる木造2階建ての建物の裏手に回ってみる

と、下に続く長い階段がある。下りてみると、そこは奈良の絵葉書に出てくるような景色であ

った。松林越しに荒池の正面に菊水楼の建物、左手には興福寺の五重の塔が見える。改めて、

このホテルが稀有な環境にあるのだということを実感した時間だった。住所を「奈良公園内」

と書いても、ちゃんと到着するというのだから。

     ホテル裏の石段を下りて行くと荒池の向こうに菊水楼と興福寺の五重の塔が見える

                                  おしまい

泊まった日/2002年2月

奈良ホテルデータ: 住所/〒630-8301 奈良市高畑町1096

                    又は奈良公園内

          電話/0742-26-3300  ファックス/0742-23-5252

          正規料金/シングル1万4000円 ツイン2万2000円〜2万7000円

               他、ダブル、和室、スィートなど各タイプあり

               洋室125室 和室7室

          チェックイン&アウト/午後3時・午前11時

          行きかた/JR奈良駅から車で8分

               近鉄奈良駅から車で5分 バス「天理行き」奈良ホテル停留所で下車

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泊まった日:2001年2月

データ:奈良ホテル  〒630-8301 奈良市高畑町1096

                                             

nara

泊まった日:2001年2月

データ:奈良ホテル  〒630-8301 奈良市高畑町1096

 

泊まった日:2001年2月

データ:奈良ホテル  〒630-8301 奈良市高畑町1096

泊まった日:2001年2月

データ:奈良ホテル  〒630-8301 奈良市高畑町1096

泊まった日:2001年2月

データ:奈良ホテル  〒630-8301 奈良市高畑町1096

泊まった日:2001年2月

データ:奈良ホテル  〒630-8301 奈良市高畑町1096

泊まった日:2001年2月