夢子のホテル大好きシリーズ

黒川温泉「お宿 のし湯」

 昨今の黒川温泉の人気は大変なものである。九州地区の旅行情報誌の調査では、実際に行っ

た人の満足度ナンバー1の地位を、黒川温泉がここ3年間保持している。魅力的な温泉地作り

に努力されて人気をかち得た温泉では、大分県の湯布院温泉がつとに有名だが、たくさんのお

客を従来型の古い温泉街から引き寄せることに成功した。そして今、黒川温泉。熊本県の奥深

い場所にあって、行くのは容易ではない。そんな秘湯に近い黒川温泉がどうして、今のような

人気を得るようになったのか。え〜っと、良くはしらない。すみません。僅かな知識を総動員

すると、「新明館」のご主人が、他の温泉に無い露天風呂を作ろうと決意。それには洞窟風呂だ、

と宿の裏でたった1人でコツコツ岩を掘り続けること数年。周囲の人はどうかしてしまったか

と呆れても、カンカンコツコツ。で、出来たのであります。その洞窟風呂と露天風呂がキッカ

ケとなって、他の宿も露天風呂を作り出した。そして、自分の宿だけ繁昌すれば良いのではな

く、お互いが協力し合ってみんなで温泉地を盛りたてる努力をしようということになり、交通

の便の悪い古い温泉が、魅力的な温泉街に生まれ変わることになる。共同で「風の舎」という

温泉組合事務所を作り、3つの露天風呂に立ち寄り湯の出来る「入湯手形」を作る。その前提

には、全旅館が、宿泊客以外に風呂を開放するという同意も得た。こうして、宿泊客は、自分

の泊まる宿以外に3つの温泉を楽しみ、日帰り客にも3つのハシゴ湯を勧めるシステムが出来

上がった。というところだろう。今、黒川温泉には、27軒の宿がそれぞれの魅力作りに精を

出しながら湯煙を上げている。

萱葺き屋根の離れ「あざみ」に宿泊

 27軒もあるのに稼動率100%という超人気の黒川温泉において、泊まりたい宿の特別な

部屋を指定して予約する、なんて技を今回の同行者がやってくれたお陰で、女性に大人気の「の

し湯」の萱葺き屋根の離れ「あざみ」に泊まることが出来た。女性2名は「あざみ」、男性軍2

名が泊まった隣の離れ「しおん」は囲炉裏を切った部屋があり、ここも人気が高いらしい。こ

の2つの離れには、石をくりぬいた岩風呂まで部屋に付いているのだ。他の部屋も、半露天温

泉付きの部屋、月見台付きの和洋室、ソファーベッド付きの部屋とバラエティに富んだ部屋があ

る。さて「あざみ」である。のし湯玄関ホールの左側から外廊下を進んだ突き当たりにある。

入ると左手に水屋、トイレ、突き当たりのドアを開けると左手に洗面台、正面にくりぬいた岩

に温泉がなみなみと溢れている浴室。廊下を中心にして右手にある部屋は段差のある2部屋で、

下の板の間には大きな掘り炬燵、小さな階段をトントンと上がると洒落た座敷があって、障子を

開けると小さなベランダに出ることが出来る。板の間の天井は、吹き抜けのようなカタチでか

なり高く萱葺き屋根を内側から支える大きな梁が剥き出しで、その真中では大きな扇風機が回

って暖房の暖かい空気をかき混ぜている。「あざみ」だけで、1つの家のような格好になる。

堀炬燵の下の部屋から座敷を見る  上の座敷から堀炬燵の板の間を見る  座敷の座卓

落ち着いた床の間には百合の花       座敷の窓を開けるとベンチのある小さなベランダがある

高い天井ではブルルンと羽根が回っている    ちゃんと水屋があるのです          ウォッシュトイレ

 この部屋のウリは、大きな堀炬燵と専用の岩風呂だろう。浴室のドアを開けると、突き当た

りの透明ガラス越しに湯煙が立ち込めているのが見えて「この部屋にして良かったぁ」と素直

に喜びがこみあげる。ましてや大きな岩をくりぬいて作った風呂だと知るともったいなさも感

じる。五右衛門風呂ほどの小さな風呂桶だが、少し熱めの湯がジュバジュバと流れ込み、入っ

て貰うのを静かに待っているという風情。洗面台のある更衣室には、藤の籠棚に黄色のバスタ

オルとフェイスタオルが何枚も畳まれて積んである。いいねぇ、こうゆうの。黒川温泉では、

他の宿の温泉にも入ることが出来るので、結局、部屋についているこの温泉に入ったのは、翌

日の朝だったが、朝日を浴びながら身を沈めるのと同時に、たくさんのお湯がザンブとこぼれ

出て、その快感に言い知れない贅沢を味わった。あぁ、温泉はよか〜。

               ザッブ〜ン!ジャバジャバジャバとお湯がこぼれ・・・・気持ちよか〜

 宿全体が照明やインテリア、花に凝っているが、部屋の中にもさり気なく心遣いがあって嬉

しい。黒川温泉に来た客は、多分ほとんどの人が宿泊した宿以外の立ち寄り湯に行くハズだ。

冬の黒川は寒い。寒い温泉街を歩き回るための装備にも気配りがされている。まずは浴衣、丹

前、その上にモコモコの綿入り外套のような長めの羽織。ソックス型ではあるが、2つに指が

分かれた足袋。その上、下着やタオルを入れる袋も備えられていて、絣柄の布袋の内側にはビ

ニールを張って二重になっている周到さ。お洒落で実用的な工夫に感心した。その中に、そっ

と天然のヘチマを薄く貼ったボディスポンジのようなものまで入っている。深夜の飲み会で、

その話になって隣部屋の男性2人はきょとんとしている。男性部屋の浴用袋は、ビニール製だ

ったという訳だ。女性は得をする。就寝用には、麻と木綿の混紡のような生地のざっくりとし

たネグリジェのようなものの用意もあった。私は持参のパジャマに着替えたが。

 

 絣柄の抱き枕 右側はカバーした電話    立ち寄り湯の装備一式 

立ち寄り湯も黒川の魅力

 「風の舎」で入湯手形を購入。1200円の手形で3つの風呂に入ることが出来る。風の舎では、

パンフレットやビデオで、27ある宿の自慢の風呂案内をしている。日帰り客も、宿泊客も3

つのどこのお風呂を選ぼうかと熱心に見入っている。同行者が黒川温泉に詳しい人だったので、

既にわれわれは回る風呂が決まっていた。黒川のブームを作った「山の宿 新明館」の洞窟風

呂、女性に人気の「いこい旅館」の美人湯、そして2キロ離れた山あいの一軒宿「山あいの宿

山みず木」の森の湯と木もれびの湯。山の斜面と川の両脇に広がる黒川温泉に目指す宿に向か

って、浴衣と丹前姿の温泉客が下駄をコロコロ、草履をスタスタと歩いてゆく。寒いからタオ

ルを首に巻いている人もいて。全部では無いが、黒川ではほとんどの宿が源泉を持っている。

だから、新明館の洞窟風呂に入ると薄暗い洞窟の中はむっと硫黄の匂いがするのに、いこい旅

館の美人湯は無臭で湯も透明のさらさら。源泉が違うということは、それぞれに特色のある温

泉があるということで、露天風呂の工夫を凝らした風情を楽しむ以外に、色々な温泉そのもの

を楽しむということの魅力もここにはある。夕闇が迫る頃温泉街を歩いたのでしっかり確かめ

たわけではないが、温泉街特有のケバケバしたネオンも無ければ、土産屋がズラリと並んで客

引きの呼び込み声がうるさいということも無い。宿と少しだけある店が、それぞれに自分の家

に暖かい灯をともしている街を、客が静かに歩いている風景なのだ。

  

  温泉組合「風の舎」                        温泉の真中を流れる川端をそぞろ歩き

  

  新明館は橋を渡って                   いこい旅館の美人湯看板   山みず木の森の湯(女性露天風呂)

のし湯の食事は

 立ち寄り湯からの帰り、今日の食事は何だろうという話になった。これだけの山の中だから、

山菜料理や川魚を中心にした素朴な料理だろうね、と話ながらのし湯に帰ると、男性部屋の離

れ「しおん」に食事の用意が出来ていた。午後6時と6時半のどちらかの時間を選ぶ。他の客

室のお客は、食事処で食事をするのだが、離れの2室の客は部屋食が出来る。しかも、ずらり

と最初から料理が並んでいるのではなく、1品1品出来たての暖かい料理が運ばれて来る。最

初の料理を見て「あれ?ちっとも素朴なんかじゃないじゃん!」。先付は鱈の白子和え、前菜の

口取りは鯛の酒盗漬け、河豚の煮凝り、サーモンキャビア、赤蕪寿司、自然薯磯辺揚げ、雪輪

蓮根。もう立派な懐石料理のコースなのである。貝柱の牛蒡真丈の椀、白身魚のお造り、和風

おこげ、アンコウの和風ソティ、生雲丹の湯葉鍋と続き、大根飯と味噌汁という結構な内容で

あった。アンコウソティに敷かれた大根と、炊き込みご飯に入っていた大根は「小国大根」と

言って有名らしいが、生産量も少なく地元でもなかなか手に入らないもののようだ。大根飯は

良いとしても、味の濃いソースで味付けられているので、大根の持つ甘さなどがよくわからず

もったいない。結構な料理とは言ったが、地のモノが少なすぎるのではないかなぁ。客にはい

ろんな人がいるだろうが、何時間もかけてやって来たほっこりする黒川で、都会と同じ懐石料

理は何だか似合わないように思うのだ。採れ立ての山菜やきのこ、川魚の素朴な料理の方がず

っと良いと、私は思った。とは言いながら、ビールに冷酒、地ビールを飲みながらパクパクゴ

クゴクと頂いた。たっぷりの大根飯を食べきれず、もったいないからと夜食におにぎりを作っ

て貰う食欲ぶりでもあった。

 そんな夕食を頂き、堀炬燵で深夜までワイワイと酒を飲んでいたにも関わらず、朝はお腹が

空いて目が覚めた。朝メシ前のひとっ風呂どころか3度も温泉に入ったから益々空腹である。

朝食は、食事処で。先ずは小国町で飼育しているというジャージー種の牛乳。お腹をこわすか

ら乳製品は苦手なのだが、飲んでみたら濃くてうまい。大きなザル状の入れ物に入った朝食の

おかずも、視覚的に食欲をそそる。ついご飯を2杯お替りしてしまった。

    この器がお洒落でしょ?

4年目に入ったのし湯

 のし湯は新しい。川沿いの「富士旅館」の経営で、女性にターゲットを絞った(と思われる)

宿として今年で4年目に入ったところと言う。全部で9室とこじんまりしている。スダレを

巻き上げた門をくぐると、右手に開放している野天風呂の受付と入り口、木立の合間を縫って

歩くと、馬小屋風に建てられた民芸風のレストラン「木べえ」(もくべえ)があって、軒先には

トウモロコシの実が乾燥されてずらりと吊るされている。薪もうず高く積まれて、昔の家を思

い出す。入り口から入ると、それほど大きくないホールに、ストーブに赤々と薪が燃えており、

暖かい出迎えに合う。「さぁ、寒かったでしょう、温まってください」の声が嬉しい。旅館に着

くや否や、お茶のお手前をサービスするところがあるが、着いた途端に苦行を強いられるよう

で私はキライ。ここはテーブルに座って、生姜砂糖や小梅などのお茶受けをつまみながら普通

のお茶を飲む。ここでお茶を飲みながら、カンタンな説明を聞いて部屋に移るという仕組みで

ある。9室の規模のわりには従業員がたくさんいるなぁ、という印象だが、若いのに皆さんよ

く気がついて心のこもったもてなしが気に入った。料理の内容の質問に答えられなくても、次

に部屋に来る時は、ちゃんと調理場で聞いてから答えを持って来るという態度が初々しくて好

感を持った。

  

  のし湯の入り口の門              レストラン「木べえ」

風呂は男女別の内湯と男女別の野天風呂、そして貸切りが出来る家族風呂が3つ。家族風呂

には、「宙ろく風呂」という不思議なヒノキの風呂があり、寒い早朝だったせいか、お湯がぬる

かったのが難だが、宙に浮いているような錯覚を覚える面白い湯だった。野天の湯も広々とし

て気持ちが良い。これに部屋にある風呂もあるので、内湯には入らずじまいで残念なことをし

た。とにかく、黒川温泉では立ち寄り湯もしようとすると、もうお風呂攻めのように風呂に入

ることになる。朝食を終えて、喫茶室でコーヒーを頂く。まずますの図書量と猫の置物などが

可愛いらしく飾られた部屋で、淹れたてのコーヒーを待つ。良質の時間を味わったのし湯であ

った。さて、今度はどこの宿に泊まろうか。黒川温泉はステキだ。

   

    女性野天風呂                宙に浮いたような宙ろく風呂

   

                  喫茶室も落ち着いた空間です

                                                         おしまい

データ:黒川温泉「お宿 のし湯」

    〒869-2400 熊本県阿蘇郡南小国町黒川温泉

    電話0967-44-0308  FAX0967-44-0306

    交通:福岡より九州自動車道→大分自動車道で2時間30分

       別府よりやまなみハイウェイで1時間30分

       熊本よりやまなみハイウェイで1時間30分

料金:1泊2食付き1人当たり料金

萱葺き(温泉つき)囲炉裏部屋「しおん」2名定員 平日2万5千円 休前日2万7千円

  同上     堀炬燵部屋「あざみ」3名定員 平日2万3千円 休前日2万5千円

ソファーベッドつきタイプ       2名定員 平日1万8千円 休前日2万円

詳しくは、宿に直接問い合わせてね。

かなり早くから予約しないと、満室の場合が多いようですよ。

           これが入湯手形

 

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