夢子のホテル大好きシリーズ

国民保養温泉 酸ヶ湯温泉旅館

八甲田のたもとの一軒宿

 青森駅から十和田湖行き「みずうみ号」のバスに乗って1時間強、酸ヶ湯温泉に着いた。バスに乗っ

ていた人が全員オナラをしたのではないかと思った程、バスの中まで強烈な硫黄が匂って来る。秋晴

れの気持ち良い土曜日の午後4時。旅館前はかなり広い広場になっているが、八甲田登山の基地らし

く下山して来たばかりのハイカーや、既に温泉を浴びて十和田湖への最終バスを待つ人々で旅館前

はごった返していた。初めてこの旅館の前を通ったのは高校時代の修学旅行だった。次は15年程前

の青森旅行。2回とも紅葉の鮮やかな晴天の秋だった。「いつかこの酸ヶ湯温泉に泊まりに来よう」と思

い、今日ようやくその思いが実現した。500メートル位離れたところには地獄沼があって、亜硫酸ガスや

熱湯が噴き出している。酸ヶ湯の手前の停留所は城ヶ倉温泉だったが、十和田湖に向かう途中には、

猿倉温泉、谷地温泉、蔦温泉、十和田湖温泉と魅力的な温泉が点在している。周囲は山に囲まれてい

る。紅葉に1週間早かったかと、ちょっとがっかりするが、山々のところどころに黄や赤が色づき始めて

いる。ススキが北の地の夕陽を浴びて揺れている。八甲田北登山口の看板がある。八甲田の主峰大岳

登山を終えた人たちが大勢下りて来た。酸ヶ湯は通年の営業で冬はスキー客で賑わうようだ。

   

   

酸ヶ湯温泉旅館は1軒宿だが、規模は大きい。木造2階建ての棟が7つもあって、中に入ってみると

迷路のごとく宿泊棟が色んな方向に伸びている。広場から見て中央の建物に玄関と売店、右手にはそ

ば粉100%の酸ヶ湯そばやとろろ飯の名物が売りの食堂棟があり、左手は自炊棟。正面から見えない

奥の方に旅館部の建物がある。いずれも古い建物でいかにも湯治場の雰囲気があって味わい深い。  

 

   

昭和29年に国民保養温泉の第一号に選ばれたのがこの酸ヶ湯温泉旅館とのことだが、玄関に入っ

てみるとまさに国民温泉風の混雑ぶり。入り口にどっさり置いてある靴容れのビニール袋に登山靴やス

ニーカーを詰めて勝手知った宿にどんどんと客が入って行く。入浴のみの料金は大人500円、休憩を

入れると千円で、朝7時から夜の9時まで開放されている。しばし呆然としていた私に、下足番のお爺さ

んが声を掛けてくれた。「お客さん、立ち寄り湯? 自炊部? 旅館部?」を青森弁のナマリつきで。

「旅館部」と答えると「旅館部のお客さん、1名様ご到着−!」と合図が送られ、チェックインのためにフ

ロントの青年にバトンタッチされた。私の部屋は3号棟の205号室。部屋に案内してくれるというので、

スリッパ引きずりながら着いて行く途中でお風呂はここ、食事はあそこ、トイレはここ、洗面所はそこ、と

説明を受けながら長い廊下を渡り歩く。階段を登る。靴下を履いていると、階段でスリッパが脱げそうに

なって困る。廊下を見ると、各部屋のドアの前には泊まる客分のスリッパが並んでいる。3号館って自炊

棟なのではないかなぁ。「はい、お客さんのお部屋はここでございます」。ドアを開けると、いきなり蒲団

が目に飛び込んで来た。極めて簡素な部屋を想像していたが、意外と部屋の中は賑やかだ。洗面所、

トイレ、風呂は無いものの、6畳の和室と2畳分位の廊下に自炊も出来る機能が備わっている。歩くと畳

が所々沈んで笑ってしまうが、部屋は掃除がよくされて清潔だ。蒲団は、マットレスと敷き蒲団にシーツ

を敷き、枕も掛け蒲団もちゃんと敷いた上で、3つにそのまめ折りたたんで部屋の隅に積んである。だ

から引き出せば、そのまま眠れる。便利だ。後刻正しい温泉の入り方を読むと、入浴後はすぐに部屋に

帰って蒲団に入り1時間横たわるのが宜しい、だから温泉場では万年床なのである、と説明があった。

そうか、そのためにこうして蒲団がセットされているんだなぁ。納得。

   

   

   

テレビ、金庫、電話、クローゼット、ちゃぶ台、座布団2つ、濡れタオルを乾かすロープ、鏡、派手な

絵柄のカレンダー、ちゃぶ台の上にはお茶のセットとお湯が入ったポット。お茶受けはこけもものお菓

子だ。障子の向こうの廊下には、2つの熱源のあるガス台、空っぽの冷蔵庫、ガスストーブがある。クロ

ーゼットには、浴衣と帯、厚手の羽織、濃い黄色のバスタオルと浴用タオル、歯ブラシがあった。タオル

には「貸しタオル」と書かれていて、持って行くのを禁止している。

    

トイレと洗面所は、部屋のすぐ近くにある。3号棟の2階で1つらしい。男女別でトイレは水洗である。1

階には、乾燥機付きの洗濯機が並ぶ洗濯室や水屋があったから、やっぱりここは自炊棟なのだろう。朝

洗面所で顔を洗っていると、金髪の女性が大きな鍋に水を入れて、戻って行った。部屋は私の隣の部

屋だった。不慣れな自炊という感じではなく、手馴れていたので長期湯治客なのかもしれない。正面棟

には内売店がある。野菜や魚といった生鮮食品から、デリカのおかず、調味料、カップ麺、衣料品や洗

剤など生活に必要なものは何でも揃うといった品揃えだった。

 酸ヶ湯温泉は、1回り3日として3日3回り+1日の合計10日間の湯治を推奨している。そのために安

価な湯治棟が用意されているのだが、ま、長いと飽きますよね。それならカラオケでもどうかと「シュシュ

ッポッポ」がある。朝の9時から午後4時まではダンスタイム、午後7時から11時まではカラオケタイムと

なる。夜食のそばやおにぎりも用意されているらしい。湯治にマッサージはつきものだ、ということで、午

前10時から午後11時までサービスがある。40分で3千円(税別)だから普通よりは安い。

   

   

   

   

あの「ひば千人風呂」もある温泉

 到着した時の強烈な硫黄の匂いの犯人?は、酸性硫化水素泉。風呂は2つある。酸ヶ湯と言えば、

「ひば千人風呂」という程有名な大浴場と「玉の湯」。千人風呂は混浴だが、「玉の湯」は男女別である。

ここまで来て千人風呂に入らずに帰られようかと思うが、そんな巨大な混浴に堂々と入れる程バーさん

になってもいないし。先ずは「玉の湯」に行く。延々と廊下を歩いてようやく着いたが、入浴のみ客は午

後5時までということで駆け込んだ客が殺到し、そこへチェックインした宿泊客もどんどん来るからラッシ

ュアワーの池袋駅のような混みようだった。入浴も戦争のようである。翌朝早く起きて行くと誰もいない。

撮影もしてゆっくり入る。薄暗い浴場に小さい湯船。湯の色は乳白色だ。少し熱めの湯に身を沈めると

温泉お約束の「ぷわ〜っ」の大きな溜め息が出る。表現が難しいが、何とも気持ちの良い湯なのだ。い

つまでも入っていたいと思わせる。そこに1人の年配の方が入って来られた。聞けば、青森市内から毎

週日曜日の朝、酸ヶ湯に通っておられるのだとか。それ程気持ちの良いお湯ということだ。ここの湯は

酸性が強いから石鹸は泡立たない。

   

   

 さて、千人風呂である。混浴を躊躇う女性客のために、夜の9時から10時、朝の8時から9時の2時間

だけ女性専用になるのである。あぁ良かった。夜9時に風呂に入るには酒を飲んではマズカロウと夕食

ではビール1杯すら飲まずに備える。午後9時過ぎに行ってみると、あちこちの棟から黄色のタオルを

持った女性客が「わらわらと」という表現がピッタリの様子で大浴場に吸い込まれて行く。風呂場の前に

は、お爺さんが見張っていて、男性客が入ろうとすると「ダメだって」と追い返している。浴場に入ってび

っくり。天井は高く広さは80坪もある。ちょっとした体育館のようだ。女性用の脱衣場から目隠しの壁沿

いに進むと「冷ノ湯」。源泉を冷ましてあって頭から被れと表示がある。一番奥が大きな浴槽で「四分六

分の湯」。名の通り六分の温泉に四分の水を混ぜてあるが、かなり熱めだ。「ヒバ千人風呂」と名前が付

いているのは、檜の一種ヒバの木で浴槽が出来ているから。あぁ、気持ち良いなぁ。源泉が出て来るとこ

ろに飲用の小さな杯が置いてある。1日に飲んで良い量は10CCだったか、秋田の玉川温泉にもそん

な表示があった。ほんのちょっと飲んでみると、余りの酸っぱさに飛び上がる程だ。その横には「滝湯」

があって、上から勢い良くお湯が落ちて来る。お湯を当てたい肩や頭や膝などをその人ごとに調整して

下で待つ。恥ずかしくなくなる年齢になっても、混浴でこの滝湯に当るのは特別な勇気が要るのではな

いか。別名「鹿湯」の別名もあり、300年以上前に怪我をした鹿が傷を癒したので「鹿湯」と呼ばれ、そ

れが後にしかゆ→すかゆ 酸ヶ湯となったと言い伝えられる元になった湯でもある。男性用入り口の近く

に、これも大きな「熱ノ湯」がある。アツの湯と言いながら、「四分六分の湯」よりはぬるい。湯船に浸かり

ながら全体を見渡す。目の子で数えて、今150人位が入浴している。ぎっしり入っても後100人。千人

風呂は明らかに大袈裟だ。しかし、そんなことはどうでも良い。海抜925メートルの八甲田のたもとで、

大勢が同時にこの素晴らしい温泉を楽しめるということが魅力なのだから。

   

   「ひば千人風呂」の入り口      せめてポスターで雰囲気を味わって下さい    湯上りにここで涼む人も

山の温泉の食事は

 食事は、正面棟の2階の食事室で取る。夕食は午後5時半から7時半まで好きな時間に行けば良い。

6時過ぎに行くと既に多くの客がビールや日本酒を飲みながら寛いでいた。食卓には、意外な程の品

数の多い料理が並んでいる。これが2食付き1泊1万0500円の料金の夕食だろうか。酒は夜9時からの

千人風呂に入るために断る。名物の酸ヶ湯そばと味噌汁、ご飯が運ばれて来る。最初に食べた10割そ

ばと言う細く切られたそばがうまい。並んだ料理は、じゅんさいと生ウニ、酢の物(蛸・山芋・きゅ うり、イク

ラ・海草)、巻き貝と姫筍、蟹爪・生ハムのきゅうり巻き、山菜おこわ、湯葉シュウ マイ、牛肉のたたき、刺

身(子持ちワカメ、鱒、帆立)、きのこ味噌、鴨肉と茄子、そしてご飯、 味噌汁、デザートには洋梨ゼリー

まである。刺身もうまい。山の中とはいえ、1時間で山を下 りれば青森市だから新鮮な素材が手に入るの

だろう。自家製のきのこ味噌も良い味がして、酒 のつまみに良いだろうなと恨めしく思った。この大満足

の夕食を香り高いヒバの箸で頂くのだ。 ヒバは檜の一種だが、箸袋から取り出しただけで森林浴の時の

木の香りがする。贅沢なお箸で あった。

   

   

   

朝食は午前7時から、同じ食事室で。ヴュッフェスタイルである。洋食の料理も多少あるが、

ほとんどは和食だ。漬物などの他にも朝から板前さんが仕事した煮物料理や煮豆などもあって

充実している。

   

 正面玄関の横に大きな売店がある。漬物、菓子、酒類、民芸品何でもある。お箸と風呂です

っかりヒバのトリコになってしまったので、ヒバの入浴剤やオイル、球状にくり抜いた「青い

森」という入浴健康木球まで買い込んだ。「青い森」は、今も手元にあって、嗅げばいつでも森

林浴気分になれる。気持ちはいつでも「酸ヶ湯」に戻って行ける。

                                                 おしまい

データ:酸ヶ湯温泉旅館

    〒030-0111 青森市八甲田山1

    電話:017-738-6400  ファックス:017-738-6677

料金:

旅館部:  1人6畳なら1万円から1万3千円、大きさが8畳、10畳、10畳+6畳と大

  きくなるに連れ高くなる。逆に人数が増えれば安くなる。12

自炊部:  1人6畳で4千円、8畳で5500円 素泊まり

 旅館部、自炊部共に、休前日、ゴールデンウィーク、8月、10月、年末年始は10%UP

 私は、湯治棟1人宿泊で、

1泊2食1万0500円+消費税525円+入湯税150円 =11175円 であった。

行き方:青森駅から「十和田湖」行きのバス「みずうみ号」で1時間10分 1300

    十和田湖から「青森」行きのバス「みずうみ号」で1時間50分 1700

チェックイン&アウト:午後3時   午前10時

      ホテル日記のトップに戻る   夢子倶楽部のトップに戻る