歌仙「吟醸も」の巻

       吟醸もわれも空なり虫の声     友游

        ちりりちりりと秋忍び寄る    夢子

       朝月は国境の村見守りて      雅房

        峠を急ぐ二本編笠        森林

       寒気切り大杉木立屹立す      釣行

        音譜のようにはずむ子の肩    双葉

       引退の駿馬の眼澄み深く      夢子

        君に逢へるか若鮎の宿      友游

       たはむれのコロン浴衣はきつく着て 雅房

        留守番電話くりかへし聞く    森林

       紅貝や長き渚の赤き星       双葉

        風を窺ふ初陣の蜂        夢子

       行く春の棚田に時報こだまして   雅房

        釣竿軽ろく有明に発つ      友游

       浮浪者の蒲団世間の文字おどる   森林

        瞳にうつる蟻の行列       双葉

       渾身の力よ古木花つけぬ      夢子

        絹の道には絹の春雨       雅房

       天と地にはさまれ五分の魂よ    森林

        スパイクシューズ夏を蹴散らす  雅房

       たかんなの堀っては折れる白さかな 友游

        宵宮に映える君のいでたち    夢子

       微笑みはからだが声になっている  双葉

        五年ぶりの生家の夜長      森林

       大河を渡る蝶あり秋祭       雅房

        目つむれば過ぐ風のさやけさ   友游

       遥か来て稲架木稀なり米平野    夢子

        小さな願い七夕にかく      双葉

       パトカーと犬の遠吠え雨月かな   森林

        連れ立つ母娘それぞれの色    友游

       先端の技術を説きし国なまり    夢子

        煎れたての珈琲時をさえぎる   双葉

       高架ゆく電車の影や汐干潟     友游

        風船はるか成層圏へ       森林

       朝の陽につぼみを満たす花の意志  双葉

        燕もいまは巣作りの季      雅房

       歌仙「吟醸も」の巻   

       起首:平成6年10月7日  満尾:平成8年11月13日

       捌き:友游 

       連衆:夢子、森林、雅房、双葉、釣行

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