歌仙「マンボウ」の巻

       春潮やマンボウ生きてつながるる   友游

       声が上わずる子ら始業式      夢子

       紅白にひとり陣取り春昏れて     森林

        西より出づる酔狂の猿       酔猿

       はろばろと草原の道月の道      玄妙

        占ひ人に沙羅の花咲く       友游

       大バッハ老優の死をなぐさめて    夢子

        影ふたつゆれ石畳ふむ       森林

       酔芙蓉髪の乱れを知られまじ     酔猿

       野におもひとぶ初嵐かな      玄妙

       三兄弟栗盗る謀りひそひそと     森林

        それぞれが身にしむ独り立ち    夢子

       山の端も月のあかねに染まりけり   玄妙

        広き露台に衣ずれの音       酔猿

       コンドルは薄き空気の点となる    友游

        移民一世喜寿祝ふ春        森林

       古伊万里に吟醸つぎて花の雲     夢子

        逆光に舞ふは蝶かまた夢      友游

       春昼の回転扉二人して        酔猿

        沈丁の香に重ねる逢瀬       玄妙

       この指も掌も唇も瞳も他人のもの   森林

        蹴球ファンはペイントを凝る    夢子

       晩鐘や夏草匂ふ坊泊り        酔猿

        地曳網ひく脛の涼しき       友游

       遠雷は天わたりゐて行く方なし    森林

        胸さわぎして読む手紙かな     酔猿

       チェンマイの濃き闇の中茘枝熟れ   玄妙

        友と飲む窓秋の雨ふる       友游

       茫々と鳴子鳴らぬ田月射して     夢子

        妻の鼾にふと国憂ふ        森林

       庭芝に青草のびて今朝の冬      友游  

       ぷっくりはじける牡蠣雑炊     玄妙 

       水取りの火の粉ゆく先春やある    夢子

        流木ひろふ粟島の浜        玄妙

       見上げれば花の波間を連れ立ちて   酔猿

        長旅終はり朝湯のしゃぼん     森林

歌仙「マンボウ」の巻    

起首 平成五年三月一六日   満尾 平成五年1一二月二二日

捌き 友游

連衆 夢子、森林、酔猿、玄妙

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